千里馬のニュウニュウ


9月9日、生徒たちを空港に迎えに行く前に、瀋陽駅界隈をぶらついていたら、あっ!と驚くものを見つけました。駅まで歩いて10分もかからない繁華街のど真ん中のやや裏手に位置するのですが、5年ほど前に行った、朝鮮族の夫婦がやっている食堂です。あの時に、翌年には取り壊されると聞いていたし、周りの状況から、それもむべなるかなと思っていたので、まさかまだ営業していたとは信じられませんでした。


最初に行った時は、確かウチのスタッフとふたりで入り、冷麺かなにか食べたと思います。帰り際に店の人に「どこから来たの?」と聞かれましたが、私が「日本人です。」と答えると、奥の方で包丁を使っていた男性が、「チッ!」と小さく舌打ちしたのです。聴力はすこぶる優秀な私はそういうのは聞き逃しません。

こういう時には“打って出る”のが私のやり方で、さっそくその夜に、生徒全員を連れて夕飯を食べに行きました。ボロい店構えで、とても安いのですが、味の方は上々でした。翌年からはもうないものと思い込んでいたし、スケジュールの関係もあったので、すっかり忘れていたのですが、まさかと思いなおして訪ねてみたら、あったのです。

オヤジさんの方は病気で寝たきりになってしまったそうで、オクサンと雇われコックさんとでやっていました。この建物は、かつてこの地が“満州国”であった時代に、日本人が造り、日本人が住んでいた建物です。「日本人が造ったものは、ほんとうに頑丈でね。」と、女主人は半ば苦笑いをこらえながらいっていました。2階部分はもう崩れて使えないそうですが、店舗部分は確かに分厚い壁に、立派な柱造りで、まだまだ10年くらいは使えそうです。30年ほど前に店を開いたそうですが、じゃその前は?と聞いてみると、なんと、人民解放軍が使っていたそうです。



ここで私は、5年前にはいなかったニュウニュウという名のワンちゃんに出会いました。ベビーカーの中にいたのであれ?と思ったのですが、横を見るとこんな補助具が置いてあったのです。老犬ではなく、子供の頃に病気になったんだそうです。もしかしたら生まれつきかも知れませんが、犬にこういった器具を付けて飼っている人を、私は中国で初めて見ました。女主人が、「日本人は犬を捨てたりしないよね?」と聞くので、私はつい「そうですよ。」といってしまいましたが、現実にはいろいろ遺棄問題を抱えているのはご承知の通りです。こんなふうに日本人に対して“好意的”な言い方をしてくれたのを覆したくなかったので、ついつい大ウソをついてしまいました。


ニュウニュウは補助具を付けると元気にあちこち動き回ります。両後ろ足が完全に萎えているので、補助具なしではまったく動けません。私は老齢化したなつめのことを思い出しながら、「来年も来るからね、元気でいるんだよ。長生きするんだよ。」と、何度もなぜなぜしながら話しかけました。

泊まっていたホテルが近かったこともあって、けっきょく生徒たちは、中国最初の食事と最後の食事の両方を、この千里馬食堂で取り、ニュウニュウに別れを告げて飛行場に向かいました。今回の生徒たちは大メシ食らいが多く、出て来たものをきれいさっぱり、一点残らず平らげたのですが(写真を撮っておけばよかった)、女主人は「中国人は平気で食べ物を残すけど、こんなにきれいに食べてくれて…」と、なぜか感無量といったていで私たちを見送ってくれたのです。家に帰ってから、間違いなく“日本人嫌い”だったはずのお連れ合いに、きっといろいろ報告してくれるんだろうなあと思いつつ、初日、裏通りをぶらついてよかったと思いました。


おまけ;長春で。迷惑だっ!、て顔してません?


太原にいたなつめ犬。