安国寺

離石に安国寺という古刹があることは前から知っていましたが、いつでも行けると思うとかえってなかなか機会がなく、今日、やっと行ってきました。安国寺というのは、離石の西の端の方にあるのですが、これまでは公共交通機関がなかったのです。ところが市は今年に入ってから大幅に都市交通を改善し、かつてオンボロだった市内バスは、ほぼすべて真新しい電気自動車に変わりました。そして、居留区域が市街地にどんどん延びているのに伴って、ルートも大幅に変更、延長となり、安国寺というバス停ができたのです。だからそこまでは、1元(≒16円)で行けるのですが、そこから寺までどのくらいあるのかわかりません。泊まったホテルの服務員がスマホで調べてくれて、1.6キロくらいだということがわかりました。それならば、いくら山道とはいえ、往復で2時間もあれば充分でしょう。

今日は朝から強い日差しが照り付ける中、バスを下りて歩き始めました。緩やかな坂になった道路は立派に舗装されています。珍しく無風に近い日だったので、砂埃もなく、街中では最盛を迎えている柳絮の綿毛もまだ少なめで、樹木の陰側を選んで歩きながら、まずまず快適なハイキングでした。


30分ほど歩いたところで、畑をしているおっさんがいたので、「安国寺はまだ遠いですか?」と聞いてみると、「いいや、そこんとこをまわったらすぐだよ」という心安らぐ応えが返って来ました。

で、それからしばらく行くと、大きな石標がありました。しかしここで私はハタと迷ったのです。いったい右に行けばいいのか左に行けばいいのか、これだけではわからないのです。両方ともが上り坂です。人も車も通りそうにありません。フト、右側の遥か彼方に民家が1軒あるのを見つけて、やむなくそこまで歩きました。ところが、どこかから人声はするのですが、扉には南京錠がかかり、番犬が2匹ワンワンと吠えかかってきます。仕方なく石票まで戻りました。すると左側の道から下りてくる車がいて、「こちら側だけど、まだまだ遠いよ」といわれました。それでも、おっさんはすぐだといったのだから、それほどでもあるまいと思って、また歩き始めました。



ほんとうにいい天気でした。途中にこんな樹木が並んでいました。まるで秋の黄葉のように黄色いのです。初夏の新緑も紅くなったり黄色くなったりするものがありますが、ここまで見事に黄葉している並木は日本では見たことがありません。何という樹木なんでしょう?

“そこんとこ”をまわってから、そろそろ30分も過ぎた頃に、ようやく建物の屋根がちらほら見えてきました。あのあたりが安国寺かしらと思ったのですが、どうも寺の建物とは雰囲気が違います。久しぶりに出会った人間様に訊ねてみると、ここは杜家塔という村落で、寺まではまだ3里(1.5キロ)くらいあるというのです。結局、おっさんが言った、“そこんとこ”から1時間以上、計2時間近くも歩いて、古刹安国寺にたどり着きました。



この寺は、唐代637年に創建されたそうで、相当に古い寺なのですが、例によって戦乱の巷と過酷な自然環境の中で、当時の遺構はほとんど残っていないのです。それでも一部には残っているのでしょうが、説明書きが何もなく、10元の入場料払ったのに、チケットすらなしで、どれが当時のものなのかわかりませんでした。今、観光開発が進んでいるところで、いずれそういった点も整備されるとは思いますが。


これは当時のものかも知れませんね。説明書きはいっさいナシです。


ちょうど牡丹の花が満開でした。中国寺には牡丹がよく似合います。


中国でよく見る龍家会という名の樹。これで1本の樹です。20年間自分が面倒を見て来たとおじさんが誇らしげに言っていました。


どこかの寺でも見ましたが、こうやって小枝を差し込むのです。何人かに聞いてみましたが、みなわからないというのです。おまじない、厄除け?


遥かに望む離石の街。


周囲を山に囲まれた窪地のようなところに寺はあるのですが、山には植林が進んでいるようです。ここに限らず市街地でも、国をあげての植林活動は進んでいると思います。


2時間ほど寺域をぶらついた後、帰ることにしました。入り口の切符売り場というか、みな車でやって来るので、駐車場の料金所にいたおじさんが、この階段を下りた方が近いというので、何度も何度も“騙されて”いるにもかかわらず、根が素直な私はその言に従って階段を下り始めました。しかしこの階段が、さすが中国ですね、途方もなく長かったのです。もう戻れない私はひたすら下りました。誰ひとりすれ違う人はいません。途中から数え始めて600段ほど。つまり、1000段くらいはあったと思います。で、私はイヤな予感がしたのです。この階段を下りたところで、果たして私が上って来た道に出るのだろうか、つまりバス停に近いのだろうか?

予感は的中しました。階段が終わって平地に出たのですが、上った時の道とは違うのです。ちょうど道路清掃をしていたおばさんがいたので、バス停までどのくらいかと聞いてみると、2キロくらいだろうといわれました。誰を恨むわけにもゆきません。みんな私が悪いのです。

今回は、万歩計というものを持ってゆきました。30000歩を軽〜く越えていました。けっきょく安国寺は疲れただけだったようですが、積年の気がかりがひとつだけ消滅しました。