白亜の殿堂


今日午前中に人と会って、それでクアラルンプールまで来た用件がすべて終了しました。そこで、その待ち合わせ場所のすぐ前にあった、中国式の仏教寺院に入って見ました。狭い敷地ぎりぎりに建てられた寺で、道路の向かい側からしか写真も撮れません。さすがにクアラルンプール、ペトロナスツインタワーのすぐ並びにある寺なので、致し方ありません。

私が行ったのはちょうどお昼時で、堂内は閑散としていたのですが、注意書きやお知らせの貼り紙など、すべて中国語で、私にはわかりやすかったです。ここを訪れる人はほぼ華人ということでしょう。時々行きかう人たちも中国語で話し合っているようでした。



本堂の横に細い道が付いていたので何だろうと思って行ってみると、なんと、本堂の真裏が大きな素食食堂になっていたのです。「素食」というのは、中国語で精進料理という意味ですが、何種類もの野菜と豆腐料理など、ズラリと並んでいて、自分で皿にとって、会計をしてもらって、好きなところで食べる、あるいはテイクアウトするのです。界隈で働いている人のランチタイムといった感じでしたが、やはり中華系の顔立ちの人が多かったようです。月曜から金曜の12時から2時半までの営業です。


このところまともなものを口にしていなかった私は、いけないいけないと思いつつもこんなに山盛りにしてしまいました。で、学食みたいに並んで順番に会計をしてもらうのですが、5リンギット、つまり130円ほどでした。クアラルンプールは思いのほか物価が高く、ランチの料金は日本とあまり変わりません。ここは寺の経営だし、若いお坊さんも働いていたので、採算を考えなくていいのでしょう。こんなところがあったなんて、もっと早くに知っていたら、毎日でも通ったのに残念。

満腹になったところで、せっかくだから、どこか観光ポイントにでも行って見ようということで、旧クアラルンプール鉄道中央駅に行くことにしました。ネット上にきれいな写真が出ていたからです。そもそも私は、“イスラム建築”というものが好きで、中東を旅した時などは、ひんやりとしたモスクの中に入って、素晴らしい、しかし擦り切れた絨毯の上でぼんやり考え事したり、時にはベールに隠れて(有名なモスクにはだいたい貸し出し用が用意してある)うたたねしたりもしました。偶像崇拝を禁じているイスラム教のモスクには、例えば仏像とか、お供えとか、線香とか、そういったものはいっさいなくて、広〜〜い空間が、ただただそこにあるだけです。




話が飛びましたが、これがかつてのマレー鉄道中央駅。シンガポール行きの国際列車が発着していたようです。現在は中距離のローカル路線が使っているのですが、次に来る機会がもしあれば、ぜひそれに乗って見たいと思っています。光線の具合もカメラも腕もよくないので、白い色がきれいに出ないのですが、まさに“白亜の殿堂”でした。今も駅として使われている部分は、なんということもないフツーの空間でしたが、冷房のきいた小さな待合室があって、そこで涼んでいたら、中国語で話しかけて来た2人組の若い女の子がいて、しばらく雑談。武漢から来た中学校の先生だとかで、今は冬休み。次にはどうしても日本に行きたいと言っていました。中国もこうやって若い女性だけで自由に海外に行かれるようになったんだなぁと思い入りました。街で見かける観光客の半分近くが中国人のようです。ただし、団体でゾロゾロというのはなくて、みな少人数。多くは親戚や知人などが住んでいて、言葉も通じるので、団体で来る必要がないのだと思います。



そして、その中央駅のすぐ前に、建築様式の違った、やっぱり白亜の殿堂があったので、何かしらと思ったら、名前だけはどこかで聞いたことのある、Hotel Majestic. あれ?意外に小さいんだなぁと思ったらとんでもない、すぐとなりにあった巨大なウィングも Majestic の新館でした。凄いなぁとぽかんと見上げていると、ちょうどそこから若者が出て来たので道を聞くと、23歳だという華人の彼は、一昨年友達と3週間も日本旅行をしたとかで、カタコトの日本語も話せました。このホテルの電気系統の管理部門にいるそうです。日本人の客も多いといっていました。やっぱりね。

それで彼にいろいろ聞いてみると、このホテルは、イギリス統治時代の1930年代に建てられ、長い間マレーシア最高級のホテルとして、世界的にも名高かったそうですが、その後、時代の流れに勝てずに1980年代にいったん閉鎖したそうです。しかし国の保護で取り壊しをまぬがれ、けっきょく2012年に全面改装されて生まれ変わりました。そしてその仕事を請け負ったのが、有名な華人経営者で、なんでも北海道にも1軒ホテルを持っているとか。(ちなみに、何代も前からその地に住み着いて暮らしている人たちを、華僑とはいいません。中国籍を持ったまま海外に居留する人を華僑と呼ぶようです。)

マレーシアの人口構成は、マレー人が60%、華人が30%、インド系が10%くらいだそうですが、経済的豊かさの比率は、もちろんこれには比例しないでしょう。今回は短い滞在の上に、ほとんどホテルから出ない日も多かったのですが、なぜか“中国人”とばかり接触する日々でした。ベトナムではぜんぜん通じない中国語が、ここではまったく不便を感じません。中華世界というのが、ものすごいスピードでどんどん世界に広がっているような気がするのですが、いったいどこまでゆくのでしょう?