七十の木登り


相変わらず“生き物”との闘いに明け暮れながらも、ここのところ、日常雑事に追われる毎日です。すっかり涼しく(寒く?)なって、サソリはようやく活動休止期に入ったもようですが、お次はまたまたネズミ。床と壁に2か所トンネルがあって、そこから出ようと夜中にゴソゴソうるさいのです。イケにゃんが部屋にいてくれるといいのですが、そもそもお隣のネコだし、チビなつがものすごいやきもちを焼くので、とてもとても。。。その上にまた、冷蔵庫とか食器棚みたいなものがないので、食品の保管に苦労しています。今の季節は村人たちがいろんなものをくれるので、部屋中にネズミの好物が散乱しているのです。棗も好物です。

それからもうひとつ。しばらく前から部屋の中が臭くて、これはおそらくどこかにネズミの死骸がころがっているのだと思います。なぜそう思うかというと、動物の死骸などに発生する、真っ黒なハエをときどき目にするからです。日本では見たことがない大きなハエです。もう涼しくなっているので、いずれミイラ化すれば臭わないのですが、以前イージャオの家にいたとき、真夏にこれが発生して、部屋中50匹以上が飛び回ったことがありました。幸か不幸か重症の鼻炎持ちなので、まぁ許容範囲ですが、普通の人は耐えられないと思いますよ。


棗を干すのは今年は止めようと、ここ数年毎年思うのですが、棗を拾ったりもいだりするのが面白いので、散歩のたびに、やっぱりポケットにこぼれんばかりに突っ込んでしまいます。去年は1キロが10円にも満たない豊作貧乏で、ほとんど誰も収穫しませんでした。高い樹の上に実る棗の収穫には、やはり人手が必要で、数年前までは、町に出た息子や嫁たちが揃って帰郷したものでした。


今年も仲買人の姿は見られず、自家消費用にいくらか収穫するだけで、ほとんど、いわば80%くらいが樹の上でむなしく干からびてゆくのを待つだけです。山道はすでに棗の絨毯です。おととしはいくらだったか覚えていませんが、確かにオート三輪で仲買人が村を廻っていました。いい時期には1キロが100円近くしたそうです。それも何年も前の物価ですから、1/10以下に下落したことになります。

来年以降はどうかというと、私の印象では、もう棗の需要が回復することはないと思っています。というのは、今は街に出れば、10年ほど前までは見たこともない、珍しい、新しい、おいしい食べ物が、お金さえ出せば簡単に手に入るのです。年寄りたちにとっては貴重な甘いおやつだった棗も、今どきの若い人たちからは徐々に振り向かれなくなっているに違いありません。棗はこれからも実を付けるでしょうが、やはり人の手がかからなくなった樹木は、徐々にその姿を変え、やがては“野生に返る”とはいえ、これまでにかかった長い長い時間を考えれば、哀しいほどに短い、あっという間の時の流れに違いありません。鈴なりに実った、“農作物”としての棗の姿が見られるのもそれほど長くはないような気がします。

もちろん、棗の生産で食べている棗農家というのはありますが、それはもう少し北側の黄河に沿ったあたりです。そこでは今年はどんな取引がされているのかわかりませんが、まさに死活問題だと思います。また、新疆省等にも有名な産地があるようです。

チビなつはもうすっかり私の犬みたいになっていますが、放し飼いなのに、毎日散歩に出なければなりません。面倒ではありますが、おかげで最近また山の畑をブラブラするようになりました。そこでつい3日ほど前のことですが、少し遠くまで出かけると、突然3匹の犬に出くわしたのです。これまで私が見たことがない犬たちでしたが、そのうちの1匹がラブラドールくらいもある大きさで、シェパードみたいな感じの黒犬でした。さすがの犬好きの私もビビッて、さりげなく来た道を戻り、「なつ、おいで、おいで」と呼ぶのですが、3匹に取り囲まれたチビなつはすっかり尻尾を下げ、身動きすることもできません。これはマズいなと思ったのですが、周りに棒切れの一本も見つからないし、誰か通りそうな気配もありません。私は過去、ネパールと中国で、3回犬に咬まれたことがあるのですが、あの大きさではヤバい、と思っているうちにようやくスキを見てチビなつが逃げて来たので、私はどうしたかというと、樹に登ったのです。畑の真ん中に、ちょうど低い位置で二股に分かれているクルミの樹があったので、まずはチビなつを抱き上げて横に伸びている頃合いの枝にしがみつかせ、私はその二股から可能な限りの高い位置まで身体を引き上げました。幸い3匹の犬たちは襲って来るような素振りはなく、じきに姿を消しましたが、イヤハヤ、こんな歳になって素手で木登りをさせられるとは。。。


昨日、私のミニ菜園の整理をしていたら、最後の花をけなげに咲かせている松葉ボタンの根元から、白骨の破片がいくつも出てきて、すわっ!と思ったら、ナンのことはない、チビなつの“秘密の場所”だったんですね。彼は村の“重鎮のお犬様”、ということもあってか、けっこうあちこちでごちそうをもらってきて、食べきれない時があるのです。どこかに隠しているなとは思っていましたが、花の叢の中とはね。ウチの松葉ボタンは、栄養がいいのでずいぶん丈高く茂るのです。


今日は、日帰りで離石に行って、米とドッグフードとネズミぺったんこを担いで帰って来ました。チビなつは本来のご主人のもとに帰っているので、さっそくイケにゃんがやって来て、ドッグフードをバリバリ食べています。ネコは自分の皿でないとエサを食べないとか聞きますが(落語にありますよね)、そんなことないですね。彼らは、いつも同じ皿で、お互い残り物を食べ合ってますよ。ただ、犬が大好きなサツマイモを、ネコはまったく食べないみたいです。



“ビンボーじいさん”のところに行ったら、コマイのもいっぱいいて、何匹いるのか数えられません。少なくとも20匹以上。みんな部屋の中で寝かせてもらって、ごちそうはないけれどシアワセそうです。