ベトナムの旅 その9

私にとってベトナムは初めての国の上に、事前にガイドブックの類はいっさい目にしませんでした。ただ、前にもアップしているのですが、太原まで行ったにも関わらず手に入らなかったのです。ぶらり一人旅ではなく、仕事として行くわけですから、事前の知識は必要でした。やむなく同僚に任せておいたわけですが、とにかく意外なことの連続でした。ベトナムに対していかに無知であったか、誤ったイメージに捉われていたか、生徒を“引率”するなんてとんでもないことだと恥じ入った次第です。

禁煙問題もしかり。長く中国、しかもド田舎の山西暮らしで、タバコを吸う、タバコをすすめる、というのがむしろ“文化”として定着しているので、ベトナム人も当然のようにタバコを吸うだろうと思っていたのは大きな間違いでした。もちろん私が行ったのは大都会だけですから、地方の事情はもう少し違っているかもしれません。それにしてもまず、街を歩いていても、タバコ屋がないのです。酒とタバコは一緒に売っていることが多く、つまり酒屋も見ないのです。もちろんビールはあります。スーパーに行っても、ケースで売っているし、ホテルの冷蔵庫にも必ず入っています。でも、その他の酒、日本ならば清酒や焼酎、中国(山西省)なら白酒というのを見ないのです。フランス文化といっても、ワインがズラリと棚に並んでいるというわけでもありませんでした。舶来物の高価なウイスキー、ブランデーはありました。しかし、これは一般庶民が飲むものではないでしょう。今回は時間がなく、その上、やって来た同僚が一滴も飲めない男だったので、けっきょくよくわからないのですが、私は一度も“ベトナムの酒”を飲む機会がなかったのです。これは次回の課題ですね。

公共の場所やホテル、レストランは当たり前のこととして禁煙です。泊まったホテルの部屋に灰皿がおいてあるところは一か所もありませんでした。吸いたいというと、灰皿を出してくれて、それを持って廊下とか、外に出て吸わなければなりません。そもそも吸っている人をほとんど見たことがなかったのです。




この写真は、カントーのバスターミナルの喫煙所。大きなターミナルで、当然建物はあるのですが、扉というものはなく、完全にオープンです。中国ならば、もちろん吸い放題ですが、ベトナムでは建物の裏まで行って、こっそり吸わなければならないのです。しかも、ここにいた人たちが吸っていたかというと、私以外には誰ひとり吸っていませんでした。


喫煙所の後ろに写っているのがトイレですが、こんな、老人用のトイレマークがありました。日本にもありますかね?いえ、日本だときっとあっても使わない人が多いかも。見栄で。ベトナムではやはり、老人を大切にするという、儒教文化は生きていますね。これをいうには理由があって、実は中越国境越えのとき、私がベトナム側の税関で並んでいたら、「老人の方は並ばなくていいですよ」といって、先頭まで連れて行ってくれた係官がいたのです。これにもほんとうにびっくりしました。実際、徒歩で国境を越えるなんてのは、若い人ばかりでしたが。



カントーからホーチミンに戻るバスは、こんなバスだったのです。しかも、来る時に乗った普通のバスと料金は同じ。中国にもまったく同じものがありますが、私が知る限り夜行専門です。私の席は2階窓側の一番後ろで(縦に3列ある。ここは観光客にとっては一番いい席で、おそらくは切符売り場の人が気をきかせてくれたのでは?)、ここから振り向いてすぐ下、つまり1階部分の最後列はこんな感じ。まったく“ファーストクラス”ですね。


このバスは靴を脱いで、渡されたビニール袋に入れてから乗ります。途中でトイレ休憩があるのですが、そしたらこんなゴムサンダルが用意してあったのです。なんと、細かい気配りでしょう。


ホーチミンはかつてサイゴンと呼ばれていたわけですが、やっぱり愛着があるのでしょうね、ホテルやレストランなど、「○○サイゴン」とか、「サイゴン××」というネーミングをよく見ました。しかし、バスターミナルの行き先表示までとは驚きました。中央の黄色くマーカーが入ったところは、100,000ドン(500円)という料金ですが、すぐその上に「CANTHO-SAIGON」とあります。

それからこれは、全体を通じて感じたことですが、働いている人がとても若いのです。ホテルのフロントやサービス係り、掃除の女性まで含めて、ほとんどが20代、17歳とか18歳とか答える人も少なくありませんでした。バスやTAXIの運転手や車掌もしかり。路上で屋台を拡げている人たちだって若いのです。もちろん大都市部の特徴もあるのでしょうが、大部分は生産直売だろうと思われる、市場でモノを売っている人たちでも比較的若いのです。街中を歩いている人、バイクで疾走している人、カフェでくつろいでいる人、たちも比較的若いのです。いったい年寄りはどこで何をしているのでしょうか?若者たちは高卒で、あるいは中卒で働きに出る人が多いと思うのですが、これは大きな謎です。

そして、何日か前のコメント欄に、在日ベトナム人の投書について六文銭さんが書いてくださっていますが、実際、ベトナム若い人たちが、それが例えバスの運転手や街角のビルの守衛や屋台の売り子などだとしても、みな明るく生き生きと、自分の仕事に誇りを持っているように見え、ゆきずりの外国人にも笑顔を絶やさないのです。例えば、単語だけで道を聞いても、まず自分が何歩か前に出て、つまり聞き手がわかりやすいように、あっちですよと指さしてくれるのです。政府の建物の前に立っていた、軍服の兵士ですらそうでした。これは現在の中国ではまずあり得ないことで、私は感動しました。私が今回初めてベトナムに行って、すっかりベトナム好きになってしまった一番の理由は、これらのことに他なりません。