ビンボー人の犬だくさん

今日はよく晴れて、外の方がずっと暖かいので、ぐるりと村をまわってみました。村は地形的に4つの部分に分かれていて、文化広場があるところが中心、半分くらいの人がここに住んでいます。私もここです。公道を挟んで東側にひと塊住んでいて、割合に新しい地区です。建てヤオトンが多く、比較的若い人が住んでいます。西側にぐるりと回りこんだところにもひと塊あって、ここは昔からのヤオトン造りです。あと、谷に下りてゆく(招賢に向かう)途中に何軒かありますが、無人の空き家が多く(日当たりが悪い)、実際に住んでいるのはほんの数軒です。


西側の集落に、私がよく行く秋香ばあちゃんの家があるのですが、このあたりがいわば“村はずれ”になります。ただ畑に行くには近くて便利です。


秋香ばあちゃんは村の最高齢女性で、今年数えで90歳です。まだまだ元気で、頭の方もはっきりしているのですが、最近足が痛いと言い出したのでちょっと心配です。足腰をやられてカンから下りられなくなると、あとはもう時間の問題となってしまうからです。よほどお金に余裕がある人でない限り、入院するということは考えられず、安い投薬でごまかしながらお迎えを待つばかりとなります。

実際に今ひとり、近くのヤオトンでそういう状況に陥っているばあちゃんがひとりいて、近くを通ると「マー、マー、マー!」と、ひっきりなしにお母さんを呼ぶ声が聞こえます。数年前に離石にいる長男のところに行ったのですが、春節の初八の夜、ここに住んでいる次男に背負われて、自分が元々住んでいて、その後空き家になっていた部屋に戻って来ました。死んで、この地で埋葬されるためにです。次男夫婦は毎日食事は届けているのですが、自分たちの部屋にひきとって面倒を見るということはしないのです。石炭は十分に焚いているから寒くはないと思いますが、何年も空き家になっていた部屋で、ひとり寂しく残された日々を消化してゆくというのは、いったいどんな気持ちなのだろう?お母さんを呼ぶ声がだんだん小さくなり、間遠になり、やがて聞こえなくなって、最後にすーっと沈黙が訪れるのでしょう。私はそれを知るのが辛いので、なるべくその近くを通らないようにしています。もちろん、すべての家庭がこうだとはいいませんが、特に非難されるやり方ではなく、界隈ではほぼ一般的な習慣です。

話がズレましたが、この秋香ばあちゃんが住んでいる西側の一帯は、実はビンボー人が多く暮らしているところなんです。元々が村はずれにひっそりと暮らしていた人たちだと思います。中国にももちろん生活保護という制度はあって、私が聞いたところでは、年間2000元、1800元、500元の3種類あるそうです。ばあちゃんの家(息子と2人暮らし)がいくらもらっているかは聞いてないですが、最近はとにかく物価が高くなっているので生活は苦しいと思います。



ばあちゃんの家からちょっと行ったところにこのじいちゃん(といっても、多分私より若い)の家があって、ここがまたビンボーなんです。どれくらいビンボーかというと、男3人兄弟のうち、誰一人結婚できなかった、というほどにビンボーなんです。自分は独身主義だなんて、そんな現代的な発想は金輪際ないですよ。単にビンボーだったからです。“嫁をもらう”には、昔も今も、お金(財産)がいるのです。

で、この家は犬を何匹も飼っていて、それは食肉として売るためのものではありません。もっと小さな雑犬ばかりです。番犬を必要とするような財産はとうていないのですが、なぜだかよくわかりません。私がここに来た頃は、大きな黒い犬を1匹だけ飼っていましたが、その犬が死んでから、急にたくさん飼いだしたのです。何匹いるのか数えきれないのですが、おそらく7、8匹。



で、今日行ったらじいちゃんが、また産まれたというのです。どれどれと、部屋の中に入ってみたら、いました、いました。上の写真の右手前、ゴミの山の下でかたまっていました。全部で8匹いるようです。


これがお母さん犬で、子犬のことが心配で、私のことをじっと観察しているのです。場合によっては攻撃してくる犬も多いのですが、このお母さんはとてもおとなしいです。それにしても、こんなに小さな身体で8匹も産んだのはちょっと変だなと思ったら、どうやら2匹が同じ時期に産んだみたいです。上の写真で見てもちょっと大きさが違いますよね。


まだこんなに小さいのですが、捨てるならば産まれてすぐに捨ててしまうはずです。「これ全部飼うの?」と聞いても、このじいさんとはさっぱり言葉が通じず、でもどうやら飼うつもりのようです。食べる物が大変だとは思いますが、それでも畑があって、穀物も作っているので、なんとかなるのでしょう。それに、ここの犬たちは庭ではなく、ちゃんと部屋の中で眠らせてもらえるのです。村ではあまり見かけません。やっぱりほんとうに犬好きなんでしょうね。でも、あの狭い部屋で15匹くらいと一緒に暮らすなんて、どんな感じか、またときどき見に行ってみましょう。