さよならクロ

クロはだいたい1日に3回は私の部屋にやって来て食べ物をねだります。飼い主がちゃんと食べさせないから、いつもお腹を空かせているのです。そのクロの姿をしばらく見ません。3、4日続けて来ないこともあるのですが、1週間は長すぎます。

それで今日、飼い主のところへ行って聞いてみました。すると離石へ行ったというのです。イージャオが連れに来たのかと聞くと、いいや違う。じゃ、誰が連れて行ったのかと問いただしてもグズグズと要を得ず、帰って来るのかと聞いても返事はなく、私はもうそれ以上聞くのを止めました。

今は離石にもペットショップが何店かあって、サモエドチベット犬が人気です。ペットフードはもちろんのこと、ペットのおもちゃだって売っています。ポメラニアンやトイプードルに服着せて散歩させている姿もときどき見かけます。イージャオが来たならともかく、あんな10歳にもなる大ぐらいの“駄犬”を、わざわざ車に乗せて離石まで連れて行く人などいません。売ったのです。

ペットとしては一銭の値打ちもないけれど、食肉としてなら100元くらいで売れるのです。そして、そういうことはこの界隈では珍しいことでもなんでもありません。食肉として売れるのは、小型犬ではなく、クロくらいの大きな犬で、クロよりもっと毛の短い、黒茶のシェパード犬みたいな感じの犬が高値で売り買いされます。小さいころから飼って、大きくなると売り、またあらたに子犬をもらってきて育てて売る。実際、この村にもそれを副業としているひとり暮らしの男が谷に住んでいて、いつも4、5匹の黒犬を飼っています。最初は、よほどの犬好きだと思っていたのですが、よく見ていると、犬たちがしょっちゅう変わっているのに気がつきました。それらはブタや羊の飼育と同じで、なんら咎められることではないでしょう、この地では。

1週間前、結婚式のビデオを頼まれて、帰りに残り物の肉やらエビやら大ごちそうをもらってきたのですが、それをちょっとだけ食べさせたのが最後でした。また明日ねと、もっと欲しがるクロをなだめて帰らせたけれど、ごめんね、全部食べさせてあげればよかったね。ちょうどお隣が2週間部屋を空けるので、その間はずっとウチにいてもいいよと、クロの寝床も用意したのに、結局1日も来られなかったね。どうにもしてあげられなくて、ほんとうにごめん!


10月22日に撮ったこの写真が、クロの最後の写真となりました。


季節はめぐり、今年の農作業も終わって、村人たちは冬ごもりの準備です。私もこの地に暮らしてはや10年。チビ犬が去り、クロが去り、冬が来て、この過酷な黄色い大地にも、そろそろ初雪が降る季節となりました。