MASJID JAMEK

私がクアラルンプールに滞在したのは6泊7日でした。元々が観光目的ではないので、世界遺産のマラッカなど、“有名”なところへ足を延ばすこともなく、近場をウロウロしていました。ティティワンサは、モノレールの他にもLRTという、いわゆる郊外電車が2路線走っていて、どこへ行くにも便利で、タクシーは一度も利用することはありませんでした。で、このLRTアンパン線というのに乗ると、4つ目の駅がマスジット・ジャメという駅です。



クアラルンプールという名前は、マレーシア語で「泥の川の合流地点」という意味だそうで、そこに建つのが MASJID JAMEK(マスジッド・ジャメ)モスクです。100年ほど前にイギリス人の設計者によって建てられたそうです。このモスクはマスジッド・ジャメ駅に隣接していてよく見えるので、私もすでに何度か目にし、帰国するまでには必ず一度入ってみようと思っていました。

で、いよいよ明日は帰るという前日、デジカメの電池も満タンにし、黒いベールも用意して(女性は髪を隠さなくてはならない)、最後のシメとばかりに張り切って出かけました。ところがなんと、その日は金曜日だったのです。曜日のことなどとんと頭になかった“異教徒”の私は、やむなく川の対岸で、礼拝に続々と集まってくる男たちをぼんやりながめているしかありませんでした。しかし、日陰もないしそのままではらちがあかないので、先回ひるんだブキッ・ビンタンにでも行ってみようと駅の階段を上りました。







そして私は、高架になった駅のホームで、目の前に広がるこれらの光景に釘付けになってしまったのです。人々はただひたすらに祈っていました。偶像崇拝が禁止されているイスラム教では、祈りの場には祈る人しか存在しないのです。

マレーシアでは、イスラム教が国教とされていて、総人口およそ3000万人のうち、2000万人ほどがモスリムだそうです。お隣のインドネシアは、世界最大のモスリム人口を抱えている国であり、およそ1億7000万人のイスラム教徒がいるといわれています。そして、中国全土には回族がおよそ1000万人、新疆省には、ウイグル族などのモスリムがやはり1000万人ほどいます(以上の数値はかなり大雑把なものです)。

イスラム教というと、どうしても乾燥した中近東(西アジア)をイメージしがちではないでしょうか?しかし現実は、海と熱帯雨林に囲繞された南アジア、東南アジアの国々でこんなにも多くのモスリムたちが、しかも全世界同じ時刻(時差の問題はありますが)にいっせいに神に祈りをささげているのです。その敬虔にして壮観な光景を目の当たりにして、私の今回のマレーシアの旅は、それがそもそも予定されたものでなかったからこそ余計に、私のこれまでの誤った、あるいは希薄だった“アジア観”を根底から覆すものになったことを確認しました。