蘭州3日目にしみじみ思うこと

今回の漢庭は、温州城というビルの5、6階にあるのですが、同じビルの9、10階に「文芸招待所」という宿があることがわかりました。招待所というのは、ずっと“格下”の宿泊施設です。でももしかしたら泊めてくれるかもしれないと思って、昼前に行ってみました。すると受付には、ショッキングピンクの上下にド派手な化粧をした、職場を間違えてるんじゃないかというような“おねーちゃん”がいて、「いいよぉ、身分証さえあればぁ」というのです。それで、部屋を見せてもらって、内鍵がかかることだけ確認して、ここに引っ越すことにしました。


荷物を置いて、そろそろおなかも空いてきたことだし、蘭州名物の「牛肉面」でも食べようと思って外に出ました。蘭州はもともとイスラム系の人が多いところなので、豚を使わず、牛と羊を食べるのです。
ホテルのすぐ向かい側には、清真系の店がずらりと並んでいて、その中でもオープンスタイルの馬有布牛肉面に入りました。



で、入口でなんだか皿に盛った面を出していて、みんなそれを食べているのです。「涼面」という回族のごく一般的な食べ方だそうで、涼といっても冷やしてあるわけではなく常温です。それに野菜の煮たものをかけて、その上にヨーグルトと黒酢と唐辛子をかけるのです。この3種類の調味料というのが、いずれも日本ではあまり使われないものですが、実に普通に溶け合って、まったく違和感がないのに驚きました。おいしかったです。ただし、面そのものは、山西省の方がコシがあっておいしいように思います。



歩いている人の半数くらいが帽子やベールを被っているのでイスラム系の人であることがわかるわけですが、被っていない人もいるので、もっと多いということになります。蘭州市回族は50万人以上いるそうで、それ以外に東郷族という人たちも回教徒だそうです。(注;2枚目の写真の右側に写っているバイクはSUZUKI)




街をブラついていると、至るところに大小の清真寺があって、あとで聞いたことですが、蘭州だけで100以上あるそうです。お隣の寧夏省は回族自治区です。2枚目の写真のように、寺の形はしていなくて、普通の建物がそのまま礼拝所になっているところも多いようです。ここもほとんどバラックみたいなものでしたが、内部はきれいに整えられていました。外に停まっている車は無関係です。


びっくりしたのは、この赤い紙に書いてある寄付金の額です。左の一番上の人は、10万元寄付しています。ずっと下がっても1000元です。もちろんこれがどういう目的の寄付かわからないのですが、2014年と書いてありましたから、もしかしたら毎年ということですね。これに引き換え、賀家湾で毎年行われる唱劇の今年の寄付金が、例の“石炭成金”が最高で3万元、1000元出す人など5,6人で、一般的には100元です。これも後で聞いたことですが、もっと大きな寺では、100万元出す人もいるそうです。蘭州と臨県ではこれほどの所得格差があるということでしょうか?



少し大きな寺があったので入ってみました。ぶらぶらしているとこのじいちゃんが近づいてきて、どこから来たのかと聞くので、日本人だというと握手を求めてきて、ちょうど昼ご飯の時間だから一緒に食べていけ、というのです。涼面を食べたばかりでしたが、こういうチャンスを逃す手はありません。ナントカという、50代くらいの寺で一番偉い人も出てきて、その人の部屋に招き入れられたのですが、それはもう立派な部屋と調度品でした。テーブルに並べられていたのは、羊肉の蒸したもの(たぶん)と、いろんな果物がどっさり。イスラムの聖職者は肉を食べるのかと聞いたら、毎日食べるそうで、それでは高血圧にならないかというと、その一番偉い人は、220くらいあるというのです。しかし、毎日羊肉を食べているので血管が柔らかくなっているから大丈夫、といっていましたが、医学的根拠があるのでしょうか?


なぜか近くには、医療機器の店が何軒か並んでいました。左手の看板は、オムロンと読みます。


彼の息子は現在ドイツに留学中で、他の誰かの息子は、名古屋大学の博士課程に在籍しているそうです。私が暮らす賀家湾の話をしたら、中国にもまだそんなに貧しいところがあるのかと驚いていました。では、蘭州人はなぜそんなに金持ちが多いのか、何で稼いでいるのかと聞くと、蘭州は古来より商売、つまり貿易で儲けているのだという答えでした。

私もほんとうに予備知識なく外に出るのでまさにひんしゅくモノですが、確かに、この街を歩いていると、日本車、カメラはもちろんのこと、バイクもHONDA,YAMAHA,SUZUKIが国産を凌駕しているし、血圧計のことを尋ねてみたら、当然のようにOMRON,Panasonicをすすめられました。日本食の店こそ見当たりませんでしたが、柴犬だって歩いているのです。

古来より、さまざまな人が行きかい、モノが移動し、それらが混在し、文化が混じり合い、文明の発展をささえてきたのです。一度YAMAHAのバイクを見かけたときに、その持ち主に話しかけてみたのですが、彼は日本製であることを知りませんでした。一瞬あれっ?と思ったのですが、蘭州人にとっては、どこの国のものであるかということなど、あまり関係がないのかもしれません。

ひるがえって、昨今の日本のヘイトスピーチに代表される排外主義はいったい何なんだろうと思います。“文明”の反意語が“野蛮”だとすれば、「外国人は出てゆけ!自分の国に帰れ!」と叫んで恥じない彼らこそ、まさに恥ずべき野蛮人ではないのかと、しみじみ思う蘭州3日目でした。