男はつらいよ

私がいま住んでいる家の、その前に住んでいた(つまりポポが巣をかけていたとこ)家の息子の小東(シャオドン)が訂婚するらしいという話を、今の家の大家のばあちゃんが持ってきたので、さっそくそのイージャオ(小東のお父さん)のところに聞きに行きました。するとお母さんが、「それがね、まだ決まらないのよ。要求が多くて」というのです。

イージャオと小東は、2年前から離石で、「彩票」という、宝くじを売る店をやっていて、けっこう儲かるのだそうです。だからこそ結婚の話が出たのでしょうが、どうやら相手方の要求に見合う家が買えないようです。家といっても、離石では、一戸建てなどありえず、昔からある3、4階建ての古ぼけた長屋のような部屋から、高層のマンションまでピンキリですが、新築高層マンションなら、やはり最低でも2、300万円は必要となります。村に帰ればいくらでもタダ同然で手に入るヤオトンがゴロゴロしているわけですが、村に戻っても出稼ぎ以外に仕事はありません。そもそも、最近の若い女性は、村に住みたいなどとは、ぜ〜ったいに思いません。小東に新築マンションを買うだけの財力はないと思うし、おそらくはそのあたりで交渉を続けている最中ではないかと想像します。こちらではまだまだ“恋愛結婚”というのは少ないので、“愛さえあれば”というわけにはいかないのです。

で、結婚に際して、普通はどちら側がどの程度負担するものなのか、今の大家のばあちゃんに聞いてみました。

まずは男性側が、女性の親に“結納金”を払います。相場といわれるようなものはなくて、数百元、数千元。。。場合によっては数万だそうですが、この界隈ではせいぜい多くて数千という単位だろうということでした。そして男性側が家を用意します。家具も買います。そして、結婚式の当日にかかる費用もすべて男性側の負担。指輪、イヤリング、ネックレス、ブレスレットの4点セットも買い、貸衣装代などもすべて男性側が支払います。

じゃ、女性側は何を負担するのかというと、女性が実家を出るときに、「出家」(チュージャー)といって、食事をふるまったり、タバコや酒を出したりしますが、それ以上に村人がご祝儀をくれるので、実は女性側の出費というのはほとんどない、どころかかなり“儲かる”のだそうです。

もっとも、裏を返せば、娘を男性側の家にあげてしまうわけで、一昔前なら、自由に実家に帰ることもままならなかったことでしょう。女性側の「出家」に対して、男性側は「娶媳婦」(チーシーフ)といい、ズバリ女を取るという字を書きます。

で、先にお知らせした志強の「娶媳婦」が、28日に行われました。彼の家は、お父さんはすでになく、志強もアルバイトの身だし、元々ビンボーな家だったので、式はきわめて簡素でした。

ま、簡素といってもこんな感じ。段取りは何度も書いていますが、午前中に新郎が新婦の家まで迎えに行き、数時間滞在して、新婦を伴って村に帰ってくるわけです。10年ほど前までは、山地なら馬、平地なら輿を使ったものでしたが、今はみな車です。

息子が戻るのを今か今かと待つお母さん。左手ぼやけているのは、爆竹の煙。


例によって、新郎の男の親族が新婦をおんぶします。もちろん本来はお父さんがメイン。

「喜糖」という飴をなげるので、子ども達が夢中で拾っているところ。

新婦の“嫁入り道具”というのは、この布団とひと包みの衣装だけ。

最後は志強がおんぶして新居に入ります。新居はこれまでの自分の家。お嫁さんはここで暮らして、志強は離石へ出稼ぎという暮らしになります。離石まではバイクでも1時間ちょっとで行かれるので、まったく問題ないと思いますが、若い娘さんたちは、やはり“町の暮らし”を条件とする人がほとんどです。つまり、志強には町で家を用意できるようなお金がないのです。

その後に中午飯が始まり、新郎新婦が参加者にお酒を注いでまわって、婚礼の行事は終了します。

村に戻ってくるときに、「娘家(ニャンジャー)」(新婦の実家のこと)から新婦を送ってくる人が2、3人やってくるのですが、彼らは別室に案内されて接待を受け、新郎側の参加者と席を同じくすることはありません。「出家」した娘はすでに男性側の家の嫁であり、娘家というのは、かつては新年の挨拶や、子どもが生まれたときに報告に行くだけでした。もちろん最近はそんなことはなく、娘家に子どもを預けて夫婦で出稼ぎに行く、というのも珍しくなくなりました。

お嫁さんの実家はすぐ下の招賢ですし、志強のお母さんも優しい人ですから、きっとゆったりと幸せな新婚生活を送れることでしょう。ちなみに、私がこの村に来て7年を越えますが、お嫁さんが村で暮らすのは初めてのことです。

最近あまり見なくなっていましたが、こんな車も停まっていました。

追記:
そうそう、みなさんが一番気になっている情報。ジョー君は、毎日日没と同時に必ず帰ってきます。7時半頃、ちょうど懐中電灯で照らさないとよくわからない暗さになると、いつものところに留まっています。
まず、近くまでやってきて、ツェツェ、ツェツェと、地味な声で何度か鳴いて帰ってきたことを知らせてくれて、それで一瞬のスキにひらりと定位置まで飛んできます。夜中にときどき身動きをするのか、ガサゴソッと音がするのですが、夜遊びの傾向はないようです。