なつめよあれが北京の空だ(つづき)

今は5月1日からの労働節休暇を前にした閑散期なので、高速も思ったよりすいていて、心配した北京の出口付近の渋滞もなく、午後2時半頃に、目的地の「北京観賞動物医院」に到着しました。今回、結果的に日帰りできたのは、一にも二にもこの病院の位置が良かったわけで、「北三環」の道路沿いにあって、太原からの高速を出てそのままいわば都市高速に乗り、ずーーっとまっすぐに行ったところにあって、ただの一度も市街地、つまり環状線の内側を走ってなかったからです。これがもし、市の中心部にでもあろうものなら、北京の高速を出てから2時間3時間というのはザラです。

これが病院の入り口で、なんだかペットショップに毛がはえた程度だなぁと思いつつ中に入ったのですが、これが意外や意外、奥にけっこう深くて、建物の内部も清潔に保たれていて、手術室はもちろん、無菌室や隔離室、美容室に宿泊室……等々、けっこう立派な設備が整っていたのです。医者も何人もいて、パリッとした白衣を着て、キビキビと立ち働き、応対もとても丁寧で、山西省のド田舎からやって来た身には、違和感すら覚えたくらいです。

それもそのはず、やって来る“お客さん”を見ていると、みんなきれ〜いに手入れされ、日ごろの暮らし振りがしのばれる、日本ならウン十万円以上はする外国産“ブランド犬”ばかりで、つまりそのご主人は当然それだけ生活に余裕のある富裕階級の人ということになり、その中で、なつめと私の“みすぼらしさ”は、がぜん目立ちましたね。ただ、身びいきかもしれないけれど、他の犬を見ていると、みなほとんど無表情といってもいいくらいきちんとしつけられていて、なつめのようなヤンチャな生きた表情をしている犬には出会いませんでした。

しかしさすがに“日本国外務省御用達”、私の要望は即座に理解され、てきぱきと手続きがすすみ、まずは狂犬病の予防注射。私はなつめを押さえていなければならないので、なかなか写真を撮るタイミングに恵まれなかったのですが、押さえる必要なんかなく、ぜんぜん嫌がらなくて、数秒間で終わりました。

次に、固体識別用のマイクロチップを肩口に埋め込まなければならないのですが、フツーの注射針の10倍くらいの太い注射針を刺し込んで、そこにチップを流し込むのですが、ちょっと痛いので暴れるといけないからと、こんなエリマキトカゲみたいな格好をさせられました。でも、ピクッと、一瞬身体は反応しましたが、痛がるようなそぶりもなく、無事に埋め込み完了です。

なんとこの間30分。「日本政府がうるさいだけで、こっちはとっても簡単よ」と、いわれてはいたのですが、確かにあっという間に終わりました。そりゃあまぁ、日本には狂犬病はなくて、中国じゃ年間死者2万人だから、この力学は自然ではありますね。

車は動かずに外で待っていてくれて、すぐさまUターンです。私は前日に知ったのですが、中国の高速道路は、すべて省ごとの管轄になっていて、山西省の高速道路は、午後8時から午前6時まで省界のゲートを閉じてしまうのだそうです。午後8時までに山西省に入れば、出るのは自由です。河北省も北京も24時間営業ですが、なぜ山西だけが閉じてしまうのでしょう?で、張さんが、ちょうどギリギリの時間だというのです。途中何事もなければ、間に合うだろうということで、相変わらず飛ばしに飛ばしました。私は太原で買ったパンなどがあったのですが、張さんはりんごと麻花というお菓子を食べただけで、いつもだいたいそんな感じなんだそうです。“走り屋”なんですね。普段は中国人がお客さんなんだから、きっと遮二無二走っているのでしょう。

なつめも緊張が解けたのでしょうか、車中ではスヤスヤお休みです。
太原に着いたのは午後10時だったので、なつめを預かってもらうことができず、仕方なく、張さんの車の中でおやすみで、翌朝9時に私の泊まっているホテルまで届けてもらい、それをまた前日のブリーダーの家まで連れて行って、3時間ほど預け、その間に私は銀行に行ったり、買い物をしたりで、帰路もほんとうにバタバタあわただしかったです。

なんか、「博多ラーメン」の店をときどき見かけるようになりました。

太原にはこんな“公共自転車”があって、システムがまだよくわかっていないのですが、どうやら200元くらいでカードを買って利用者登録をすると、町中のこういった自転車置き場から自由に出して使えるようです。それで、行った先の自転車置き場に停めて、カードを入れると、料金が引かれてゆくようです。1時間いくらというシステムなんでしょうか?また次の機会によく聞いてみます。この自転車置き場はあちこちにあって、利用者の数も相当数にのぼると思います。“乗り捨て”みたいな感じになるのが便利ですよね。日本だと、借りたところに返さなくてはならないのでは?

ということで、けっきょく北京には泊まらず、太原に2泊して、来るときと同じ磧口のミニバンに迎えに来てもらい、10日の午後8時半に村に戻りました。もう、ものすごくあわただしくて、タイトルにあるように;
「ほら、なつめ、ここが北京だよ。空が見えないでしょう?」なんてやってるヒマは、ビタ1分とれなかったのです。

なつめが北京の地を踏んだのは、車から降りて、病院のドアをくぐるまでのほんの十数歩。あと、高速の服務区(サービスエリア)で都合4回ほどのプチ散歩。例えば天安門に連れて行って、パチリと“おのぼりさんフォト”なーんてのもアリかと思ったらとんでもハップン。とにかく、私ひとりでは何もできなかったです。なつめも村に帰った夜は爆睡していましたが、この私が、クタクタに疲れ果てた3日間でした。

それでも懸案の第一回予防接種が済んだので、ホッと一安心です。あとはもう、何があってもいくらかかっても、連れてゆくしかありません。次回は5月中頃にもう一度同じパターンで行って2回目の注射を打ち、血清をとって日本に送って、その他あれこれの手続きを済ませると、年末には日本に連れて帰れます。なつめも次の正月は日本です。

そうですね、おせちで何が一番好きかといったら、「たつくり」でしょうね。←なつめ。私は「数の子」です。