老兵士の網膜に

きのう臨県に行って写真を焼き、1泊して今日午前中に康老人を訪ねました。まず息子さんのレストランへ行ったのですが、老人は私が取材をした日を境にどんどん悪くなって、もう何日もはもたないだろうというのです。肺ガンだそうです。

歩いて5分の距離にある住居の方に行ってみると、4人の子どもたちも集まっていて、“心の準備”の方はすでに整っているようでした。おばあちゃんだけは先回会ったときよりずっと憔悴した表情で、それでも私の持って行った写真を見せると、とてもいいと喜んでくれました。

息子さんが写真を老人の顔の前に掲げて、「見えるかい?見えるだろう?」と何度か声をかけました。老人は軽くうなづいたようにも見えましたが、すでに意識は現世に留まってはいないようにも見えました。

私の撮った写真が、こんなふうに、かつて日本軍と戦ったある老兵士の網膜に、最後の情報を届けたかもしれないと思うと、痛いほどに胸が熱くなり、何も言葉が出ませんでした。

亡くなったら必ず連絡をくれるようにと電話番号を渡して私は賀家湾に戻りましたが、老人の死は、ほんの短い時間の先に必ずやってくるでしょう。たった9日前に初めて会った人たちですが、葬儀に参加したいというと、とても喜んでくれました。私は葬儀に参列してビデオを回し、そのまま三交に残って取材を続ける予定です。

(8月23日)