拉霊布(ラーリンプ)

数日前に、李家山のロンファから李探有じいちゃんの連れ合いが亡くなったという連絡をもらっていました。私がこの地に来て、もっとも初期の頃からの知り合いです。じいちゃんの家にはお金がないことがわかっていたので、せめてものという思いで、わずかばかりの香典とカメラを持って行ってきました。

思ったとおり、祭壇もなく、つき物の音楽会や村人に食事を振舞うこともなく、自家で用意した花輪がふたつと飾りものがふたつだけの、ほんとうに質素な葬儀でした。

じいちゃんは一見とても闊達で鷹揚として、ロンファの民宿には毎晩姿を現し、ときには得意の民謡を披露してくれたり、何より、だれもがカメラを向けたくなるその風貌で、間違いなく李家山一の人気者です。また、亡くなったばあちゃんのふたりのおじさんは日本軍に殺されているのですが、そういった負の部分を表に出すことは、私が取材をしたときを除いて、決してありませんでした。その彼が今回ばかりは「心臓が悪かったけれど、医者に見せてやることができなかった」と、ぼそりといっていたのが胸に突き刺さりました。

“弔問客”というのは、親族(といってもごく少数)と隣近所を除くと、どうやら私ひとりだけだったようで、行ってほんとうに良かったと思っています。これからも村で暮らすといっていましたが、もう80歳で、畑もそんなにはやれないだろうし、子どもはひとりだけで、彼からの仕送りも期待できそうにないし、どうやって生きてゆくのか、とても心配です。なるべく早目に写真を焼いて、何か保存のきく食料品と一緒に届けようと思っています。

じいちゃんばあちゃんのひ孫。

ところで今回、これまでなかなか撮ることができなかった「拉霊布」を撮ることができました。拉霊布というのは、出棺のときに棺の前に付けた霊布を、故人の息子、甥、男の孫(ひ孫が大きければひ孫)が拉いて先導する儀式です。ただし、出棺は夜明けかその少し前の時間帯ですし、それぞれ地形の問題があって、アングルがとれない場合が多く、またほんの数分後にこの布ははずされてしまうのです。

この写真を撮ったのは、午前5時半。棺が担ぎ上げられると同時に、この霊布がしゅーーっと延ばされて葬列が進んでゆきます。今回は、息子、甥、孫の3人だけでしたが、息子が多ければ当然拉き手は増え、霊布も長くなり、長ければ長いほどめでたいということになります。

(5月3日)