歌舞(ガーウー)

17日の元宵節で正月は終わったはずなのに、遠くからずいぶん賑やかな音楽が聞こえてきます。下の招賢の町かと思ったら、もっとずっと遠くの空が照明で明るく輝いていました。そういえば、高家庄で「歌舞」(ガーウー)の公演があるという貼り紙を招賢で見ました。高家庄というのは、ここからバスで15分くらいの、甕を焼く窯がいくつかある村です。

ガーウーというのは、現代ものの音楽会で、歌われるのはノリノリのチャイナポップスです。当然若者たちが主体で、情報を聞きつけた仲間たちが2人乗り、3人乗りのバイクで集まって来ます。ちょっとした屋台が2つ3つ並んだりします。中には茶髪やピアスの少年もいます。その音量たるや、日本では絶対に迷惑条例にひっかかる巨大なもので、ここから10キロは離れているはずなのに、歌詞や話し言葉も手に取るようにわかります(意味はわかりませんが?)。ゆうべは私が寝ようと思った午前1時、まだ佳境に入ったところだったようです。

実は前々から不思議に思っていることがあります。農民たちの朝は早く、夏場は5時には畑に出る人もいます。当然夜は早いわけで、9時には寝てしまう人が多いのです。ところが、葬儀の音楽会にしろ、晋劇の公演にしろ、開始時間がとても遅くて、終わるのはだいたい11時過ぎ、ときには0時をまわるのです。今回村で呼んだ晋劇は、夜の部の開始はだいたい7時半くらい。それで2ステージ、終わるのは11時半くらいでした。しかもそれが3日間続くのです。なんでそんなに遅い時間に設定するのでしょう?あと、あの大音響では眠れるはずがないと思うのですが、苦情‥‥なんてのは、出ないでしょうね。とにかく村人は“大きな音”が大好きなのです。

最近はこのガーウーが流行りなんでしょう、葬儀の音楽会もガーウーを呼ぶ家があります。普通は、「二人台」といって、男女二人が掛け合いでおめでたい話や艶っぽい話などを語り口調で歌うというのが一般的ですが、これも内容がさっぱりわからず、とりあえずビデオに収めています。

もうひとつ、「秧歌」(ヤンガー)という伝統芸能があって、先日も、中日の夜はヤンガー公演でした。ただしヤンガーは、漢民族伝統芸能で、この地だけのものではありません。なぜか臨県では、傘を持って歌うので、「傘頭秧歌」と呼ばれます。これは即興でその場その場の情景を詠んだり、おめでたい言葉を並べて呼んでくれた人や村を褒め称えたりと、なんか日本の「万歳」と似ているところもあるなぁと私は感じています。ただ、万歳は少人数で行われますが、ヤンガーは、だいたい7、8人が舞台に出そろって、交代に前に出てひと節ずつ歌うというのが定番です。鉦と太鼓のおはやしはありますが、バックミュージックはいっさいありません。

話は変わりますが、今日の午後、用があって隣村のファン家山に行ってきました。帰り道、向こうから着飾った馬がやってきたので、近くで結婚式があるのかなと思ったら、近づいてきたのは馬ではなくラクダでした。

「どっかで結婚式があるの?」と聞いてみたら、写真を撮りに行くというのです。つまりこのおじさんは、お客さんをラクダに乗せて写真をパチリと撮ってそれを商売にしているのです。

このおじさんも私を知っていたようで、自分のポケカメを出して、使い方がよくわからないから教えてくれというのです。それはソニーサイバーショットのものすごく古い型で、あれこれいじってみたのですが、今はこんな複雑な設定のものはないので、今度説明書を持ってきてくれたらわかると思うといってカメラを返しました。

ラクダはもう一頭いて、やはり結婚式に貸し出すのが最大の需要のようです。あんたがビデオ撮影をして、一緒に商売をしないかと誘われましたが、私は結婚式はあまりおもしろくありません。葬儀なら組んでもいいよといって断りました。

いまから大西局まで行くんだといっていましたが、そこからはまだ1時間くらいはかかります。おじさんはラクダには乗らず、白い犬と一緒に坂道をゆっくりと下りてゆきました。道を歩いているだけで、いろんな人に会えるものです。

(2月22日)