なつめの受難

犬はだいたい大きな音や破裂音を嫌うものですが、なつめは特別に怖がります。
まずは、大みそかから春節にかけて、あちこちでいっせいに爆竹と花火が鳴り響き、なつめは部屋の奥に駆け込み、タンスの下にもぐりこんだのですが、そこはいつもネズミがうろつく場所なので、あわてて引きずりだしました。

春節が明けてからも、爆竹はなにかとしょっちゅう鳴り響きます。その上に、ちょうどウチの隣に小さな子どもたちが5人ほど帰ってきていて、彼らが「かんしゃく玉」を破裂させて遊ぶのです。けっこう大きな音で、それがパァーン!と突然なつめを襲撃するので、怯えてしまってぶるぶる震えが止まりません。

ところがそんな子どもの遊びなんて生易しいものではすまず、9日から3日間、賀家湾村で晋劇の公演が始まったのです。晋劇とは山西版京劇といったところですが、これは村人たちがお金を出し合って呼ぶもので、その村の豊かさのバロメーターともなっているものです。当然劇団はピンキリで、「太原青年晋劇団」という名の劇団が臨県からやって来ました(羊頭狗肉というやつですね)。年寄りに聞いても「さぁ〜、記憶にないなぁ」ということで、どうやら村始まって以来のおおごとだったようです。

これはもう、バチバチドンドン、市街戦もかくありきかと思えるほどすさまじい勢いで鳴らしまくります。劇の始まりと終わり、そして村を出た人たちが帰郷し、土地神様にお参りするたびに鳴らすのですから、もう一日中です。そして、舞台はウチから100mも離れていない小学校の校庭に設営され、巨大アンプで近隣の村々に届けとガンガンやりまくりますからもう、うるさいのなんのって、難聴になってしまいそうです。でも、村人は大きな音が好きなのです。しかも、この公演は昼の部と夜の部があって、それぞれ4時間くらいもやるのです。

その上に、ちょうど湾型の谷の向かい側の家で葬儀があって、これまた風に乗ってドンチャカブンチャカ!響いてくるのです。十重二十重の大音響で、こんだけうるさい、イヤ賑やかなのも、おそらく村始まって以来のことだと思います。昔はほんとうに食べるだけで精一杯の村だったそうですから。

私も200元出しましたが、全部で4万元以上集まったそうで、確実に村は豊かになってきたようです。もちろん100元以上出した人は村を出た人ばかりで、着ている服も連れている嫁さんも、ぜんぜん“都会風”で、中には乗用車に乗って、“錦を飾って”帰って来た人もいたようです。

その喧騒につつまれた3日間がようやく終わり、今日午後、久しぶりになつめを裏の畑に連れ出しました。さすがに今日は祭りの後の静けさで、なつめも思いっきり駆け回っていたのですが、フト気がつくと、ぎゃーーっ!もう身体中にうんこがべっとり!

こないだのうんこをふき取って、何回もブラシをかけてようやく臭いも気にならなくなったところだったのに、なつめっ!とどなっても、本人(犬)は何のことかわからずキョトンとしているだけだし、これにはもうホント涙が出そうになりました。で、そうそうに散歩を切り上げて帰ろうとすると、今度はごみ溜めで何かもぐもぐやっています。

これを見た私は、最近のいらいらもあって、ついにキレ、足元にあったこぶし大の土くれを投げつけたのです。これがまた見事に命中しちゃって、身体にあたってぱぁ〜っ!と砕けました。それほど痛くはないのですが、これまでそんなことは一度もなかったから、なつめは晴天の霹靂で、それからしばらくは私の顔を見ようともせず、庭の納屋に逃げ込んでしまいました。それを引きずり出して、うんこのとこだけ水でじゃぶじゃぶ洗って、ぞうきんでごしごしこすり、ストーブに火を入れて乾かしましたが、臭いっ!その上、身体をぶるぶるやって、粉末を部屋中にまき散らすし、もう外で寝かせようかと思ったら、外はしんしんと雪が降り積もっていました。

*もういつ壊れてもいいやと開き直って長々と書いてみました。あと何日もつでしょう?
3日間の公演中、村人にビデオを頼まれてずっと回していたので、写真がほとんどありません。こういうときにこそ必要なポケカメは、ド間抜けなことに、バッテリーチャージャーを日本に忘れてきました。

(2月12日)