『証言集』の刊行について

私がこの5年半の間に老人たちから聞き取った記憶=『証言集』(証言という言葉は使いませんが、とりあえず)の発刊についてですが、けっきょく、来年3月、東京大学東洋文化研究所の叢書の一環として出させていただくことになりました。

私にはおよそ似つかわしくない“象牙の塔”からの刊行となりましたが、一般の出版社から出しても「売れない!」ということがはっきりしているし(2500部刷った『記憶にであう』は、未だに出版社の倉庫に山積みになっているらしい‥‥)、彼らの記憶を一次資料として残すには、こちらの方がより賢明であろうと、この研究所の教授のお勧めに従うことにしました。

ただし、全文中国語になります。というのも、この本は東文研から日本および世界の大学と図書館に寄贈されるもので、そのためには、日本語などというローカルな言語より、原文である中国語の方がより国際的に通用するであろうと思われるからです。いずれ時を見て、日本語に翻訳することも考えていますが、まずは資料として残す、という道を選びました。紹介してくださった教授いわく、「100年間は保存される」そうです。

それで現在は、その編集作業でものすごく忙しい毎日なのです。350ページまでという制限があるので、全体からその分を選び出して、その後さまざまな校正作業を必要とするのですが、いざ具体的にやり出してみると、思いもかけなかった問題点が続出しています。

今一番困っているのは地名で(当然、できる限り詳細な地図が必要)、現在200ヵ所ほどを拾い出したのですが、とにかく同じ地名が次々と出てくるのです。「李家山」とか「高家溝」とか「陳家庄」などという地名はほとんどどの鎮にもあり、男性の場合はほぼ問題ないのですが、女性はちょうど結婚の前後を挟んだ時期なので、どこの「李家山」なのか特定するのが難しく、話している内容(例えば、隣の○○山まで逃げた、等々)から推測するしかないのですが、実家と結婚後の地名が行ったり来たりしたり、また現在は変更されている地名もあり、時には本人の記憶ミスもあったりで、もうぐちゃぐちゃになっています。

その上に、私の部屋にはいわゆるデスクというものがないので、仕方なくレンガを積んでその上に折りたたみ式の小さなテーブルをのせ、横すわり状態でやっているので、もう腰は痛いわ、背中ははるわ、肩はこるわ、眼はしょぼしょぼするわで、きわめて効率が悪いのです。もひとつおまけに、最近停電がやたらと多く、きのうも朝起きたときから夜9時過ぎまで停電でした。困るのは、当地では、何時から停電して、何時に電気が来るのかということがさっぱりわからないということで、きのうは“非常食”のクラッカーでしのぎましたが、停電すると食事はおろか、お茶を飲むことすらできないのです。

そういった4重苦5重苦のなかで、シコシコ校正に励んでいるわけですが、地名に関しては、けっきょく本人に確認する他はないわけで、老人たちの安否の確認共々、もうしばらくしたら村々をバイクで駆け回らなければなりません。急がないと道路が凍結してしまいます。

ということで、これからまたしばらくの間、ゆっくりブログを書いている時間もないのですが、幸いネットの調子はとてもいいので、せめて写真だけでも、アップしていきたいと思っています。

(11月5日)