日常が戻りました。

瀋陽から特急で8時間ほどで太原に戻り、太原に2泊して30日午後、離石に到着しました。この特急も今年開通したばかりで、去年までは飛行機か、夜行バスでした。で、この飛行機が国慶節休暇の直前で、よほど早くから押さえないと席がなく(ウチの研修旅行は毎年この時期)、毎年村に戻るのが大変だったのですが、今年はずっと楽でした。「日進月歩」という言葉は、まさに今の中国のためにある言葉でしょう。

ところがです。離石に着いて、バスターミナルへ行くと、いつも乗る賀家湾を経由するバスが停まっていません。午後4時頃に1本あるだけです。招賢行きのバスは1日に5、6本あるのですが、山道を空身でも30分登らなければならないので、荷物があるときはいつもこのバスに乗ります。ちょうど顔見知りのおじさんがいたので聞いてみると、道が崩れて不通になっている、というのです。私がいなかったこの2週間の間にかなりの大雨が降ったそうです。仕方なく招賢行きのバスに乗り、招賢からはミニバンで送ってもらいました。

翌日からなつめを連れて山の畑を見回ってみると、これはそうとうな雨だったようで、あちこちで大小の土砂崩れの跡が見られました。黄土層は柔らかいので、水の勢いですぐに抉り取られて、この写真のようになります。しかし畑や村内の道路は修復するのも簡単で、周りのノリ面からシャベルで土を削って穴を埋めるだけですぐに元通りになって、普段通りの生活が戻ります。

ただし、バスが不通になるようながけ崩れはそう簡単ではなく、ブルドーザーが入っての大仕事になります。災害はあちこちで発生しているはずなので、当然ブルの順番待ちです。バスがいつ開通するのか、場合によってはそのルートが放棄されて、賀家湾を通るバスがなくなるという可能性も大いにあります。日本人の感覚だと、公共バスの最も重要な役目は、「通勤通学の足」といったところでしょうが、こちらでは、小学校を除いて(場合によっては含めて)、学校は全寮制が建て前ですし、村から職場へ“通勤”している人などひとりもいません。おまけにバスは個人経営だし、突然ルートがなくなることは珍しくないのです。では、バスは何に利用されているかというと、町へ買い物に出る、役場等に手続きにゆく、それから、老人たちが子どもたちに会いに行く(この反対も)ということのために利用されているのです。

ところで、私の住むヤオトンが危険で、引越しを余儀なくされるかもしれないと前回に書きましたが、大家さんから、「もうしばらく住んでもいい」という返事をもらいました。少なくとも、この冬に帰国するまではOKで、来年からのことはまた考えようということです。実はこれには、ここには書きづらい“裏話”があるのですが、とにかくホッと胸をなでおろしているところです。雨で中断していた道普請も、ちょうどウチの前までやってきました。ちなみに、右端のトマトはウチのトマトです。

ついでに、最後のネズミもようやく捕まったようです。留守の間に大家さんが来て、バタバタ動いているヤツを処分してくれたので、これもラッキーでした。やっぱり大物だったそうです。

村を出るときには1輪も咲いていなかったコスモスが開花していました。群れて咲くのが本領なので、10本程度ではやや寂しいものがありますが、大きなハチが蜜を吸いに来ていました。このハチは夕方に帰ったときにすでにいて、翌朝も同じ場所でまったく動かなかったので、死んでいるものとばかり思っていたのですが、日が昇ると活動を開始しました。つまり花粉にまみれて一晩中眠り続けたわけで、なんと幸せなハチさんでしょう。今でも毎日やって来ます。

例のスズメバチなんですが、これがとても不思議な行動をとっているのです。まず、巣はぜんぜん大きくなっていませんでした。そしてハチの数もぐんと減っているようで、出入りも以前のように頻繁ではありません。そして時々集合しては、何やら“会議”のようなことをしているのです。そしてしばらくすると解散します。そして、翌日にはまた会議をやっているのです。上の写真が10月2日午後5時、下の写真は3日の午後1時に撮ったものです。冬になると働きバチはみな死んでしまうとか聞きますが、まだまだ冬には時間があるし、いったい何をやっているのか、気になって気になって仕方がありません。ネットが繋げないのでWikiなんかも引けないし、誰か教えてください。

ところで今朝方の4時半、サソリにやられました。そのときちょうど覚醒していたようで、ズブリと針に刺される音まで聞こえました。ほんとです。瞬時にサソリとわかり、ガバと跳ね起きて布団をめくり、私の足にまだぶら下がっていたサソリをもぎり取りました。感触的にも大物でした。だいたい今頃まで活動しているのは、異常に肥大化した主のようなサソリに決まっています。夏場は外の方が温度が高いのであまり部屋の中に入ってこないのですが、外気温が下がって、室内の方が暖かくなったのです。

大昔に流行った歌の中に「♪サソリの毒はあとで効くのよぉ〜♪」とかいうのがありましたが、あれは間違いで、刺された瞬間から激痛が走ります。今回で3回目ですが、過去2回は小物だったので、まぁそれほどでもありませんでしたが、今回はもうほんとうに痛くて痛くて、涙が出ました。どんな痛みかというと、歯痛の強烈なヤツが刺された箇所に発生して、ずき〜んずき〜んと波状的に周りに広がってゆきます。痺れる感じではなく、針で神経細胞を刺し貫かれる感じで、とても眠ることなどできません。よほど鎮痛剤を飲もうかと思ったのですが、足先の歯痛にまで効果が及ぶとも思われなかったので、ここはひたすら歯を食いしばって我慢し、時の経過を待ちました。

そして、ようやく痛みもましになってウトウトしかけた7時半頃(つまり3時間近く激痛に耐えたということです)、外から私を呼ぶ声が響いて、聞こえないフリをして布団に潜り込んでいるのに、なつめが飛び出てワンワンやるので、仕方なく足をひきずって外に出てみると、ばあちゃんが大ザルに一山サツマイモを持って来てくれました。

それからまた布団に入って、起きたのは昼近く。この間も痛みは続いていて、当然のことながら悪夢にうなされ続けました。ようやく痛みが取れたのは夕方になってからです。サソリはウチのような古いヤオトンに好んで住み、深夜、音もなく忍び寄ってくるので防ぎようもなく、こんなことならネズミの方がよっぽどマシだと思いつつ、今夜からは厚めの靴下をはいて寝ようと思います。

(10月5日)