磧口の人となり

けっきょく私は磧口の人となってしまいました。古鎮賓館を月極めの家賃で借りることにしたのです。1か月100元の部屋代と、1日1元の光熱費です。まがりなりにもここは“ホテル”だから、超特別価格です。

なぜそうしたかというと、今年は“証言集”をまとめなければならないし、5月に清華大で写真展があるし、その後たぶん台湾でも開かれるし、私の職場の仕事の関係で、夏までにはハルビンにも行かなければなりません。とにかくいろいろ忙しくて、時間がないからです。賀家湾は、静かに暮らしているにはこれ以上ない環境ですが、なにしろ交通の便とネット環境が悪く、時間のロスが多すぎるからです。もちろん、もう少し暖かくなったら、なつめを乗せてバイクで行ったり来たりですが。

ここならなにしろ黄河の畔ですから、水がある、という生活のキホンのキの字が確保されます。公衆シャワーという施設もあります。離石、臨県にも毎日4、5本のバスがあり、太原までも1日1本出ています(朝の5時に出発しますが)。私は5年ほど前に最初に北京からここに移ったときに、なんて不便なところだろうと思ったのですが(もっとも、今よりはずっと不便だった)、今はもう、その“文明度”にありがた涙が出そうです。

ところがふたつ困ったことがあるのです。ひとつは、この古鎮賓館がつい1か月ほど前から3部屋を使ってワンバを始めて、私の隣の部屋もワンバになっているのですが、毎日終夜営業をしているのです。そのうるさいことといったら、だいたい2時か3時ころまでは眠れません。もっともこれは春節休暇とか、開店したばかりだという事情が重なってのことで、もう少し我慢すればいくらかマシになるのではないかと思っています。

もうひとつはなつめです。ここは、町だから広い庭などなく、特に古鎮賓館の庭というか通路は、うなぎの寝床みたいになっていて、そこをワンバに来るお客さんや普通の通行人も通ります。就学前の幼い子たちも多いのです。それで、なつめはいつもドアから身体が出せるくらいのところに繋ぎっぱなしで、とても可哀想なのです。その上に、散歩に行っても、放してやれるところがほんとうにないのです。街中は子どもと犬が多いのでダメ。湫水河の河原は、オナモミの群落だらけで、放すと身体中に100個くらい付けて帰って来て、とるのがもう大変でダメ。黄河の河原は道路に面していて交通量が多いので危険(なつめがものすごい勢いで飛び出すから)。そして、これまで連れて行っていた、黒龍廟の裏手の山には、野良犬が群れになって住みついていて、これまた伝染病が怖いからあまり近づかなくなりました。

でも今日は、河南坪の方で、ようやく条件のいいところを見つけ、久しぶりに放してやりました。ここなら、耕作が始まるまでは大丈夫でしょう。さっそく羊のあごの骨を見つけて、嬉しそうにバリバリやってました。近くに工事中の家もみつけ、そこにはなつめが大好きな砂場と崖っぷちがありました。私も黄河を見降ろしながらいっぷくできるところです。

とにかく、なつめも私も目まぐるしい環境の変化に耐えながら今日まで来ました。10日に隣村で、以前私が取材した陳在明老人の埋葬があるので、それに参加してから、いったん賀家湾に戻ります。しかし、天気予報は明日からまた、断続的に雪が降るようです。ついに、北京に着いてから1カ月が経ってしまいました。

*1枚目の写真は、古鎮賓館のうなぎの寝床。ワンバで出たペットボトルとアルミ缶を売って、45元になったそうです。それくらいすごい量が消費されているということで、子どもたちは今、お年玉をもらっているので、1年で最も金がある時期です。しかし、賀家湾では、小売部(どこの村にもある、ちょっとした雑貨屋)に行っても、「水」などは売っていません。買う人がいないからです。

(3月6日)