改改ばあちゃん PART2

(*「まったく暗くはありませんよ」というコメントもいただきましたし、そもそも村人は少しも暗くないので、続きです。)

今朝ばあちゃんの家に行ってみたら、5、6人の人たちがかたづけものなどしていて、カンの上に新しく布団を持込んで寝ている人がいました。ゆうべは誰かが泊まったということで何だかホッとしました。

離石に住んでいるお孫さんが標準語を話せたので、ようやくわかったことが多々あるのですが、ばあちゃんには子どもはひとりしかなく、しかもそのひとり息子は6年前に亡くなったのだそうです。孫は男がひとりに女が3人いるのですが、みな離れたところに住んでいます。息子のヨメさんだった人は後に再婚して、今は招賢に住んでいて、その彼女がいろいろ取り仕切っていました。連れ合いはすでに20数年前に亡くなっています。だからばあちゃんには今は子どもがいないし、お金もないから、それで村人が「埋葬だけだろう」といったのです。

それも寂しいなぁと思っていたのですが、簡単だけれども庭に祭壇が作られていました。花輪も飾り物も何もなかったけれど(もしかしたら明日来るかもしれない)、孫たちの手でお参りができるよう準備が整えられていました。ガスボンベや調理器具、食料品が持込まれ、どうやら明日の葬儀には、食事もふるまわれるようです。費用のほとんどは、おそらくは再婚した新しい連れ合いが出したのでしょう。

あさってが埋葬ですが、こちらの墓は合葬なので、先に仮埋葬してあるじいちゃん(といってもかなり若かった)の骨を掘り出さなければなりません。これは通常は葬儀と同時進行で行われるので、私も実際に見たことがなく、今回はぜひ見せてもらおうと思っていました。で、本来明日なのですが、11時ごろに「おーい、行くぞー!」と村人が呼びに来てくれました。ふたつ掘らなければならないし、土が凍っているので2日がかりになるのだそうです。あわててビデオとポケットカメラを用意して後を追いかけました。

7人がかりで3時間ほどで竪穴は掘り終わりました。棺を入れる横穴は明日掘ります。で、これは新しく合葬される墓の方で問題はなかったのですが、実はじいちゃんの墓の方に大問題が発生したのです。

なにしろ20年以上前に埋葬されているし、その場所を一番良く知っている息子は亡くなってしまったし、お金がなかったので、目印の石組みも何もなく、どうやら棺にも入れず埋葬したようです。おまけに、この辺りがちょうど“新興住宅地”になっていて、周りに新しい平屋(ピンファン)が何軒も建っていました。家を建てる時に土を削ったり捨てたりするので地形が変わってしまっていて、じいちゃんの骨を見つけることができないのです。

けっきょく4時半になって、明日もう一度探そうということになりました。しかし、妙なことがあって、私がちょっと場をはずした間に、骨が1本だけ掘り出してあったのです。これはどう見ても人間の大腿骨です。みんなも最初は見つかったと思って、周りをどんどん掘り進んだのですが、けっきょくこれは他人の骨だろうということになって、無造作に崖っぷちに放り出されていました。夜間にきっと犬が銜えていってしまうと思うのですが、誰もおかまいなしです。まさか私が拾って帰るわけにもゆかず、私はいったいこの骨の持ち主の他の部分の骨はどうなっているのかと気になって仕方がありませんでした。

部屋に戻って火を起こそうとしていると、お孫さんが食事に来てくれと呼びに来ました。私は何もしていないからと遠慮していると、彼女は、ばあちゃんが生前、私に「よくしてもらった」といっていたというのです。確かに買い物に行けない彼女のために、米やら塩やら買ってきてあげたことはあるのですが、すべて自分の買い物のついでのことです。そんなささいなことを孫に話していたなんて思いもよりませんでした。ばあちゃんの気持ちに応えるためにもと、ご相伴にあずかることにしました。

部屋には、墓堀りをした7人と、息子のかつてのヨメさん夫婦、孫が3人とその連れ合いが2人、料理人がひとりで合計15人。それに私を加えただけの、“少人数”のテーブルだったのですが、みんなで何度も乾杯をし、おいしい料理を食べ、私が持っていったセブンスターを吸いながら「オレを日本に連れて行ってくれ」という話題で盛り上がり、とても賑やかで気持ちのいい席でした。たったひとりで旅立ったばあちゃんだけど、黄土高原の土に還るまでのつかの間、こんなふうに送ってもらえるのをきっと喜んでいると思います。

そうそう、猫ちゃんも賑やかさといい匂いにつられて帰ってきましたよ。もともとの飼い主だった人が連れて帰ってくれることになりました。

今日のなつめ;
ばあちゃんに哀悼の意を表しているのか、あるいはお供えをねらっているのか?

(12月29日)