よだかの涙
みなさん、ナンマツ君のためにいろいろ気を遣ってくださってありがとうございます。思えばナンマツ君も幸せモノです。
私もこの地に暮らして4年半になり、それなりにいろいろ学んだことも多く、今回の結末は、実は当初から予想していたことのひとつでした。この地では、役に立たなくなった犬、人を噛んだりする犬を、食べるあるいは売り払う、という形で処分することは珍しくないのです。
私が小中学生くらいの頃には、ときどき「犬殺し」と呼ばれる野犬狩りの車がやって来て、そのときの光景は、子ども心にはほんとうに夢にまで出てくる、この世のものとも思われない恐ろしいものでした。もちろん、保健所の公務員の仕事だったのですが。今でも人間の都合で飼えなくなった犬が年間数十万匹だか薬殺されていると聞いたことがあります。そのどちらが残酷なのかという議論は、ここでは意味を持たないでしょう。
私は11日の夜に賀家湾に戻り、14日に臨県に写真を焼きに行ったのですが、ちょうど招賢と臨県で、豚と羊の解体の現場に行き会いました。
招賢のバス停のすぐ横に肉屋があって、ここではしょっちゅう豚の解体をしています。店の前の路上でやるのです。屠殺の現場は見たことがない(あまり見たくない)のですが、大きな甕に沸騰した湯を満たし、頭を突っ込んで溺死させるのだそうです。鼻歌交じりのおっさんたちがじつに手際よく、あっというまに肉の塊にしてしまいます。
臨県の市場で。これはこのおじさんが自分が飼っている羊をここまで連れてきて、ここで解体したのでしょう。大人も子どもも普通に買い物にやってくるところで、普通に屠殺されるのです。
肉屋のまわりにはいつも犬がたむろしていておこぼれにあずかります。犬たちを追い払うということもないようです。
肉はこんなふうにして売られます。日本ではほとんどすべてが切り身にしてスチロール樹脂のトレイに並べられ、ラップをかけて売られるので、もともと生きて呼吸をしていた動物だったということもわからない子どもたちすら出てくる始末です。
いきなりこんな写真を見せられて、「気持ちが悪い」と思われた方もいらっしゃるでしょう。決して美しい写真、いい光景ではありません。しかし同時に「かわいそうに」「この羊だって、きっともっと生きたかっただろうに」と思われたかもしれません。スーパーのパックを買うときには感じなかったけれど‥‥。
私は宮沢賢治の『よだかの星』という作品が好きです。この間の“ナンマツ君事件”であらためて思い起こし、“よだかの涙”にひとり涙している今日この頃です。
『よだかの星』はここで読めます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/473.html
(12月18日)