ただそれだけで

中3日の晴天と数日の曇天をはさんで、8月18日から今日まで、ずーーーっと雨が降っているのです。ときにぱらぱら雨だったり、ときに雷雨だったり。

思い起こせば、去年も一昨年も秋の長雨が降って、紅棗が全滅したのですが、今年はちょっと時期が早いようです。去年はちょうどその頃、やはりウチの学校の研修旅行で瀋陽の方に行っていたので、つい忘れていました。一昨年は磧口に住んでいて、黄河に流れ込む湫水河の対岸の山から落石が続いて、夜になるとその音がドドーン!ドドーン!と不気味に響き渡り、私の住んでいたヤオトンの天井の水の染みが日増しに広がって、不安な夜を過ごしたことを思い出しました。その前の年は樊家山にいて、道路が寸断され、ほとんど陸の孤島状態になっていたのです。

年間降水量500mlというのは、どうも信用できない数字のようです。まして、黄土高原が準砂漠地帯だなどというのは、誤解も甚だしく、いまじゃ庭のあちこちに緑の苔が生えてきたし、ヤギの餌の木の枝の山から、きのこが生えているのも発見しました。村人は外に出ることもなく、こればっかりはどうしようもないと、テレビかトランプかおしゃべりで、のんびり雨が上がるのを待っているようです。

しかし、おかげで私の引越しはちっともはかどらず、雨の止み間にぼちぼち荷物を運んではいるのですが、肝心のダニ退治ができないので、荷物を広げることができず、ばあちゃんの荷物と私の荷物とで、部屋の中はますます乱七八糟状態になってきました。しかし、4年以上も生活していると荷物も増えるもので、あのとき、北京からスーツケースひとつでやって来たのがウソのようです。

昼ごろ通りかかったら、村人たちが何やら谷の方をじーっと見ているので、
「何してるの?」と声をかけてみると、
「何もしてない」
「でもみんな谷の方じっと見てるじゃない?何見てるの?」
「歩いている人がいるから」
確かに、谷の向こう側の道を人間がひとりぽつぽつ歩いていました。ただそれだけです。

霧雨の中を突然こんなじいちゃんがやって来ました。
「どこへ行くの?」
「ぶらぶら」
雨の黄土高原は、ただそれだけで一日が過ぎてゆくようです。

(9月8日)