沈黙の春?

足首切断!の恐怖も去ったので、きのう雨の合間をぬって招賢へ買い物に行ってきました。途中泥の海を渡らなければならないので、赤紫の足をややひきずって徒歩で出かけました。今度はひとり暮らしなので、カナヅチやペンチなど、基本的な工具が必要になったからです。

いつも行く荒物屋でこれらのものを買い揃え、老板に、ダニ退治の薬が欲しいけれど、どこで買ったらいいか?と聞きました。すると彼はウチにいい薬があるといって、奥から何やらゴゾゴゾ取り出して来ました。そして、緑色の小さなプラスチックビンのおなかをシュッシュッと押して白い粉を噴出させたのです。

えっ!それはもしかして‥‥、あの“沈黙の春”を呼ぶとかいう恐ろしい薬品ではないの?いえ、きっとそれに違いありません。私は、進駐軍に頭から振りかけられたという経験を持つにはチト若いので、確証はないのですが、「老板、それってもしかしてものすごく危険なものじゃない?日本ではもう買うことも売ることもできないよ」というと、「いや大丈夫、これは人間にかけても安全だよ」といって、頭に振りかける動作をしたのです。これでもうDDTであることが証明されたようなものです。第一、薬局じゃなくて、荒物屋で売っているというのも怪しいじゃないですか?

今度引っ越す部屋というのは、もともとはかなり立派な、もしかしたら清朝時代に建てられたかもしれないとても古いヤオトンなのですが、なにしろ80過ぎのばあちゃんがずっとひとりで暮らしていた部屋だし、そもそも他人に貸す予定もなかったので、もうゴミ箱の中みたいに「乱七八糟」(めちゃくちゃ)で、カンの上に敷いた敷物なんかいったいいつ干したのか?もしかしたら先祖代々敷きっぱなしじゃないかと思われるほど垢と土とゴミにまみれて、もう間違いなくダニの集合住宅になっているはずです。私はこれまで何度も酷い目に遭っているので、荷物を広げる前に、まずダニを退治したかったのです。

バルサンのようなものがあればいいのですが、この地にそんな気の利いたものはありません。「入郷随郷」(郷に入っては郷に従え)で、私は1ビン1元のこの“白い粉”をともかく買って帰りました。入れ物はのっぺらぼうで、中にどんな物質が入っているのか、いっさい表示はありません。

これはあくまで私の想像ですが、おそらくは北京上海はもとより、太原ですら売れなくなった劣悪な物質が廃棄されることなく、当地のような所得水準の低い、そしてこういう言い方は好きではありませんが、教育水準の低い地域に、密かに流れ込んでいるのでしょう。発展中国の陰で、ここでもまた人の命と環境が無残に切り捨てられているのです。緑の破壊と白い粉。“沈黙の春”の教訓がこの地にまで隈なく浸透するのに、あとどれほどの時間がかかるのでしょうか?

写真;1枚目の写真は、招賢の町に入る道。後方にある勝利炭鉱から、石炭を満載した大型トラックがひっきりなしに通るので、炭塵で真っ黒なぬかるみになります。もっと危険なのは大量の排気ガスで、この町の人々に健康被害が出てくるのは時間の問題だと思います。
最後の写真は、引っ越す家の井戸の集水口。この白く泡だった雨水が直接井戸に流れ込みます。ポリグル様様です。

(9月7日)