郷に入れば

ここのところ晴天が続いています。なつめは浣腸をしてから日に日によくなり、今はもうすっかり快復しました。それどころか元気すぎて少し困っているくらいです。あまりにヤンチャで、時々村人から“苦情”が私の耳まで届いてくるのです。

なつめは基本的に鎖で繋いで飼っています。でも、鎖の長さは2メートル半くらいあり、その範囲内に1段高くなった畑があるので、そこでおしっこもうんこもでき、かなり自由に行動できます。

まず朝の8時頃、私の携帯に電話局からメールが入ると(中国の携帯は毎日使用状況を知らせてくる)、そのピピッという音を聞きつけて、扉をどんどん身体で押して私を起こします。それで鎖をとってやると外に出て行くのですが、これはすぐに帰ってきます。私が一緒でないと遠くへは行きません。それからまた繋いで、午後にだいたい毎日、少し離れた山の上まで散歩に連れて行きます。最初の頃は鎖をはずしていたのですが、最近は繋いで行って、山の上で放してやり、帰り道はそのままです。

なつめはもともとものすごく活発な犬で、動くものはアリ一匹ハエ一匹から、クモ、ハト、猫、オートバイ、風に舞うビニール袋まで、なんでも追いかけます。それでバイクや車にも体当たりでぶつかっていくのでヒヤッとしたことが何回もありました。子供も走っていれば追いかけるので、一部からは恐がられています。鶏も追いかけまわして、あやうく噛みそうなときが2回あって、私は平謝りしなければなりませんでした。そして最近は、羊を追いかける面白さを知ったようで、実はこれが一番困っているのです。

村には羊を飼っている人が数人いて、30頭から5,60頭くらいを毎日2回、高原の耕作地に放牧するわけですが、彼らがどこで草を食んでいるのかはまったくわかりません。今は収穫が終わったトウモロコシの茎なんかを食べていますが、地形的に遠くからはわからない場合が多く、それをなつめがめざとく見つけてダダーッ!と群れの中に闖入してゆくと、羊たちはもうパニックになって逃げ廻り、それをまた猛烈な砂煙をあげて右に左に追いかけ廻すのです。噛むことはないと思うのですが、羊飼いのおじさんにはたまったものではありません。しかし私の犬ということはみな知っているので、手荒なこともできません。それでなければ、羊の制御棒でぶちのめされても文句がいえないほどの狼藉ぶりなのです。

それから私が見ていないところで、どうやらメス犬に喧嘩をふっかけに行くらしく、その飼い主にぶん殴られていたと、これは大家さんがいっていました。

なぜこんなことになるかというと、なつめの本来の性格もありますが、最大の原因は、やはり繋いで飼っているということでしょう。当地では極々一部を除いて、生まれたときからずっと放し飼いで、犬は、猫や鶏や羊や人間たちと仲良く共存しているのが当たり前なので、お互い喧嘩もしなければ、好奇心もわかないのです。逆にいうと、なつめは実に好奇心旺盛で感情が豊かで、「かわいいね。こんな犬は見たことがないよ」という村人も多いのです。

郷に入ればナントヤラといいますが、やはり当地には当地の犬の飼い方があるようです。とりあえずは、羊飼いのおじさんたちの写真を撮ってあげて、ごきげんをとっておきましたが、万が一子羊でも噛むようなことがあったら大変だと、一難去ってまた一難です。

(11月19日)