なつめが死んだ

と、もしかしたら、イヤおそらく書かねばならないだろうなと、マジで覚悟しました。私の選択が誤っていたと、なつめを抱いて泣きました。

11月4日、諸々の事情があって、なつめに避妊手術を受けさせたのです。しかし、磧口の友人の紹介で離石の“動物病院”の前まで来て、私も「これはっ?」と思いました。病院とは名ばかりで、それはまごうことなき“ペットショップ”に他ならなかったのです。ただそのときは、ちょうど日本から友人たちが来ていたので、なんとなくバタバタしていて慎重に物事を判断するという余裕に欠け、また当地では、避妊手術は通過儀礼みたいなもので、人間様だって病院ではなく、役場の片隅の診療室でチャチャッと簡単に済ませるとも聞いていたので、愚かにも熟慮することなく“医者”らしきおじさんになつめを託しました。

2時間くらいで連絡が来て、行ってみると、なつめは“ペットショップ”の事務机の上で点滴中でした。おなかに包帯を巻き、薄目をあけ、口も半開きで、生きているのか死んでいるのかわからない状態になっていました。当たり前のことながら全身麻酔をかけるわけで、麻酔の恐ろしさまでは考えていませんでした。なかなか体温が戻らず、“医者”のおじさんもちょっと首をひねって、新たに注射を打ち、不安そうな表情を見せたのですが、このときに、私は自分の選択が間違っていたとひどく後悔し、なつめはこのまま死んでしまうのではないかと恐れました。友人たちはみな日本へ帰って行き、私はひとり泣きそうな顔でひたすら時間が経つのを待ったのです。

それでもしばらくしてなつめはヨロヨロと自力で立ち上がり、それを以って「手術は成功した」と“医者”のおじさんはいうので、300元を支払い、なつめを手提げ袋に入れ、上着で隠してタクシーに乗り、賀家湾まで戻りました。

しばらくは地面に下ろせないので、カンの上にふとんを敷き、なつめのスペースを作って寝かせました。その晩は麻酔のせいでトロトロしていましたが、ごはんも少し食べました。2日目はちょっと元気になりました。ところが3日目になるとむしろ動かなくなり、身体も冷たくなって、夜になるとハーハーと苦しそうな息をするようになり、食べたものを吐いてしまったのです。私は青くなりました。なつめは死んでしまうのではないか?しかし離石のおじさんにメールでいろいろ問い合わせても納得できる答えが返ってきません。しかし賀家湾から離石まで「犬」を連れて行くというのは、簡単なことではないのです。それにそもそもそのおじさんの“医療技術”をどこまで信頼したらいいのか、私はまったく途方にくれて、ほとんど眠ることもできず、夜が明けるのを待ち、やはりとにかく、もう一度離石に連れて行こうと考えていました。

4日目の朝も状態は変わりませんでしたが、ここまできて、「もしかしたら便秘が原因ではないか?」と思い至りました。手術後、いくらかは食べているのに一度もうんこをしていません。これまでなつめは必ず1日に2回、うんこをしていました。メールでおじさんに確かめると、「それがすべての原因です」とまぁ、調子のいい答えが返ってきて、食用油を30cc飲ませてくれというのです。試してみましたが、そんなものは舐めようとはしません。それで、私は浣腸をすることにしました。うんこが出ないのなら、その方が確実に効果があるはずです。それでもダメなら、腸閉塞になっているのではないか?

とにかく、村の大夫に来てもらって、私が口を押さえ、近所の人に足を押さえてもらって、いやがるなつめのお尻に石鹸水を50ccくらい流し込みました。すると3分もしないうちに黄色い液体が流れ出し、畑に放してやると、もうびっくりするくらいたくさんのうんこをしたのです。お尻の毛はうんこまみれになりましたが、私はしっかりとなつめを抱きしめました。

といういきさつがあって、今はかなり元気になりました。まだまだ予断は許しませんが、確実に回復に向かっています。ごはんも食べるし、昨日からは自力でうんこをしています。まだカンの上の私の枕元で寝ているのですが、目が覚めると領域を逸脱して私のふとんの中で寝ていたりします(ちなみに起きているときは、私がダメッ!というと、進入してきません)。そろそろ下に下ろさなければと思っているのですが、写真のような“豪邸”で手厚い看護を受けたなつめが、かつてのダンボールハウスにすんなり戻ってくれるかどうか?今はそれが大いに気になるところです。

(11月10日)