飛んで火に入る夏の虫

今日、6月13日午後5時前、おしめり程度とはいえ、“恵みの雨”が降りました。私は開化からとりあえず磧口に戻ったのですが(ここは無線ネットカードが繋がります)、賀家湾のあたりも間違いなく降っていると思います。村人たちのホッとした笑顔が眼に見えるようです。

そして実は今日もまたおもしろいことがありました。雨が降る直前、買い物に出た戻り道でなにやらゴソゴソ動いているものがあったので覗きこんでみると、それはスズメの子でした。巣から落ちたのかしらと思って見上げても、それらしきものはみあたりません。野生のスズメなんて絶対に無理だろうなとは思いつつ、猫も多いことだし、とにかく拾って帰りました。そして直径20センチほどの洗面器に枯れ草を敷いて入れてやると、すぐに元気になって盛んにチイチイピイピイ鳴くようになりました。どこにも怪我はなかったようです。何か餌が欲しいんだろうと思っても、いったい何をあげればいいのかわからず、小麦粉を水で溶いて与えてみたのですが、嘴に塗りつけてもぜんぜん食べる気配はありません。これはやっぱりお母さんに見つけてもらうしか生きる方法はないなと思って、洗面器ごと籠に入れ、それを雨上がりの庭の洗濯ロープにぶら下げました。

子スズメは「早く自分を見つけてお母さん!」と間断なく鳴き続けましたが、それを聞いているうちになんだか私は切なくなってきてしまいました。今は盛んなこの鳴き声がいずれは間遠になり、ついに聞こえなくなったときに子スズメに死がやってくるのでしょう。いつか新聞で読んだ、生き埋めになった炭鉱労働者が中から壁を叩きつづけ、それがだんだん力弱くなり、ついには聞こえなくなったとき、救助を待たずに生を終えたという記事を思い出したからです。日が暮れるまでにお母さんスズメがやって来なければ、明日の朝にはおそらく冷たくなっていることでしょう。

そろそろタイムリミットが近づいてきた頃、私のパソコンのモニターに小さな羽虫が一匹止まりました。もしかして、と思った私は、爪楊枝で串刺しにして子スズメの口元に持っていったのですが、なんと、顔中を口にしてガブリとかぶりついたのです。爪楊枝にまで噛み付いて離そうとしません。その“獰猛さ”といったら、もしかしたらこいつはスズメなんかではなく、鷲か鷹のヒナではないかと思ったくらいです。そのあとに蜂と蚊トンボも食べたのですが、まだまだ足りないようでピイピイいっています。いつもなら昆虫などゴマンといるのですが、今日は一雨降ったのでみなどこかに姿を消してしまいました。仕方なく私はすっかり暗くなった今、扉を全開にして、“飛んで火に入る夏の虫”を待っているのです。

(6月13日)
なんだか面構えからして、ほんとうにスズメではないような気がしてきました。どなたかわかる方教えてください。