黄土高原の“小北京”

イーハーの学生時代の友達が「開化」という村の小学校の先生をしているというのでさっそく行ってきました。というのも、そのあたりはかつて八路軍の拠点だった「革命根拠地」のひとつだった、という話を聞いたからです。

磧口や賀家湾は、臨県の最南部にあるのですが、開化は最北部にあります。それで行く前に磧口の人たちに聞いてみると、「開化へ行くんだって?あそこはほんとうに田舎で何もないビンボーなところだよ」と口を揃えるのです。それはそれで私には願ってもないことで、さっそくカップ麺やお菓子や水や、自分の椀と箸までそろえてバスに乗り込みました。ところが、途中で1度乗り換えて、7時間ほどかかると聞いていたのに、道がすっかりよくなっていて、4時間ほどで着いてしまったのです。そしてまず、バスが到着したところに10軒ほどの小さな店が並び、食堂まであって、あれっ?話が違うぞと首をひねりました。

すでにバスの中で私の身元は暴露されており(つまり、村に1本しかないバスによそ者が乗り込めば何から何まで詮索される)、一緒になった中学校の先生が、生徒に私の重い荷物を持たせて、小学校まで案内してくれました。これまた意外なことに、村には中学校まであったのです。校舎もヤオトンではなく、ふつうの2階建てのレンガ造りでした。

私が着いたのは、午後3時頃でしたが、イーハーの友達の郭先生と同僚たちは、なんと、教室の隣の部屋でトランプをしていたのです。予定外に早く着いた“珍客”にみなあわてて現金をポケットにしまい込みましたが、まぁこれはそれほど“意外”なことではありません。村の“若い衆”とトランプ賭博は切っても切り離せない関係にあるのです。とはいっても掛け金はわずかなもので、村人たちの最大の娯楽といっていいでしょう。これは男女平等です。

私は職員室にでも泊めてもらうつもりで、シーツまで用意して行ったのですが、同僚の張先生の家が、改築したばかりで村一番のいい部屋で、おまけに83歳のおばあちゃんが一緒に住んでいると聞いて、シメタとばかり、そこでお世話になることにしました。そして夕方3人で張先生の家に行って、これまた予想外のことにびっくりしたのです。

去年2万元をかけて改築した彼の家(ヤオトン)の屋根には、太陽熱温水器が設置されており、シャワーどころかバスタブまであって、花模様のついた陶器の洗面台には、大きな鏡と2人の娘たちが使うシャンプーや化粧品が並んでいて、日本の団地の洗面所の光景となんら変わりなかったのです。しかも水は井戸から汲み上げているのでタダ、もちろん強烈な太陽熱で24時間温水が使えるのです。もっとも水道があるのは村でも張先生の家だけで、彼が自ら苦心惨憺して工事したのだそうです。水周りの工事は難しいので、はたして何年もつのか?すでに洗面台の下からチョロチョロ流れ出ている排水を横目に「先生の家は、まるで黄土高原の“小北京”ですね」と、半分お世辞半分本気で、まずはそつなく到着のあいさつをした私でした。

(6月12日)

写真;張先生たちが昔住んでいた家。私が今いる南部とはかなり違った形をしています。下が彼のお母さん。最初に顔を見たときは、日本人の私を恐がっていました。