馬桶蓋(ma tong gai)


昨今の中国人観光客の“爆買”は、時期が当たっていたら流行語大賞間違いなしなほど有名になっているようですが、中国政府がそれを苦々しく思っているのもまた当然のことでしょう。

“四宝”というものがあって、ひとつは忘れましたが、あとの3つは、保温水杯(小型の保温ポット)と電飯鍋(電気炊飯器)と馬桶蓋だそうです。みなさんよくご存じだと思いますが、馬桶蓋というのは、温水器付き便座のことですね。

私はすでに3年以上も前に、日本で観光バスの運転手をしている人から、中国人観光客がみなこれを買ってゆくのだと聞いて、へぇ〜〜と思ったものですが、これの話題がこんな黄土高原の村の中でも聞かれるようになったのです。

1週間ほど前、出かけて村に戻る途中で、乗り換えのバス待ちをしていたら、鎮の公安のおっさんが拾ってくれて、車中で、中国人の爆買問題はけしからんという話になりました。愛国精神が足りないというのです。どうも彼は、問題の馬桶蓋というものが、実際にはどういうものなのかよくわかっていないようなので、私があれこれ説明して、「実際に使ってみると快適なものだよ。今は旅費もずいぶん安くなったから、あなたもぜひ一度日本に行って、経験してみてくださいな」とお勧めして車を下りました。

で、その公安が乗っていた車が、これまでは公用車しか見たことがなかったけど、実はホンダ車だったんですね。3年ほど乗っているけど、やっぱり日本の技術はいいね、と、それこそ愛国精神はどこに行ったのやらで、中国社会の精神も、こんなド田舎にまで変化の大波がやってきているんだなぁとしみじみ考えさせられました。



で、つい一昨日のことですが、村の葬儀にやってきた30代の青年と話していたら、なんでも10何個も馬桶蓋を買ってきた人がいたそうで、それはバカげていると憤懣やるかたない口ぶりなのです。「あれはそもそも中国産で、中国から日本に輸出したものを、わざわざ日本まで買いに行っているバカがいる」というのです。まぁ“中国産”とはいえ、日本の企業が日本の技術と日本の設備を使って生産したもので、国産は労働力だけでしょ、とはいいませんでしたが、なるほどね。しばらく前まで政府系メディアは、「中国の技術は、便器の蓋を研究するためにあるのではない」と負け惜しみをいっていたはずですが、最近は言い方を変えたんですね。

そもそも村のトイレは、地面に穴を掘って大きな甕を埋め込んだだけのもので、洋式の便器すら、見たことがない人がほとんどだと思いますが、テレビであれこれやってるんでしょうね。メディアの力はすごいです。もちろん、「自国民が、なぜ赤ちゃんのおむつや、ハミガキやシャンプーまで日本に買いに行くのか、その理由をよく考えなければならない」というまっとうな意見もあって、当然上層部では理解していることでしょうが、なにしろ、10数億の民を統べるということは、なかなかに難しいことだと思います。



*写真は離石の公園で。桃の花がほころび始めたら、親子で“桃狩り”にやってくる人や、「魚釣り厳禁」の看板の横で、魚捕ってる人たちで賑わっていました。
もっとも、この看板の「后果自負」というのはどこででも見る4文字ですが、結果の責任は自分で負え、というものです。町中の無料の駐車場などにも必ず書いてあります。つまり、自分で責任を負うのなら釣ってもいいという意味でしょうか?これもいかにも中国的ですね。