秋香ばあちゃん 織布(ジーブー)

今年89歳の賀秋香ばあちゃんは、村の最高齢女性ですが、とても元気で、家事いっさいをこなし、今でもときどき畑に出ています。立ち居振る舞いにこそ年齢を感じさせますが、頭の方はしごくはっきりしていて、これまた“農民の鑑”ともいうべき、働き者の50代の息子とふたりで暮らしています。

私が彼女のヤオトンをしばしば訪れるのは、彼女たちが、その前の世代から受け継いできた、言葉の本来の意味においての「労働」の記憶と技術を、今も日常的に継承し続けている人たちで、それを見るのがとても好きだからです。

村もだんだん豊かになって、以前は自分たちで作っていた道具や日用品も金銭で購入することが多くなり、夏場には電気調理器を併用する家庭が普通になりました。湯一杯沸かすためにも、火を起こしマキをくべる手間を考えれば、それもまた当然のことでしょう。ただし、秋香ばあちゃんたちの技術の前では、それにもいかほどの価値があるのかといぶかしんでしまうほど、彼らの技術にはすばらしいものがあるのです。彼らはあたかも時代の流れに逆らうかのように、“かたくな”なまでに伝統を守り続け、野山にある自然物や、農作物の殻などで、なんでも自分たちで作ってしまうのです。黄土高原のこの辺鄙な村々でも、そういう人たちはほんとうに少なくなったと思います。

そのばあちゃんが、久しぶりに機織りをするというので、その一部始終をビデオカメラにおさめました。機織りはそんなにたびたびすることではないので、もしかしたらこれが最後になるかもしれないからです。

4月14日。ちょっとわかりずらいのですが、左側の壁際に並んでいるバケツや洗面器の中にそれぞれひとつづつ毛糸球が入っています。すべてセーターなどをほどいた古毛糸で、これだけ集めるためには相当の時間がかかります。写真の最上部にわずかに棒が写っていますが、それにリングが付けてあって、それぞれその輪を通したものをばあちゃんが引いてひとつの束にして下に下ろしてゆきます。これが縦糸になるわけです。

5月15日。糸の束を鎖状にまとめます。

こんな感じになって、この束の長さが、完成した布の長さになります。

5月17日。これを機織機にとりつけて(この時だけ撮影していない)、糸の束を大きな櫛のようなものでそろえてゆきます。

これを順々に巻き上げてゆきます。

5月24日。18日から始めた機織りもそろそろ完成間近になりました。見ていると本当に重労働で、ばあちゃんも休み休みしながらです。

28日にばあちゃんの家をのぞいたら、布を3枚はぎ合わせて何か作っていました(注;メガネなし。後方の糸の束は第2弾用)。これはカンの上に敷くカーペット、というか、実はこれがこちらでは敷布団なのです。土でできたカンの上にはまずゴザ状のものを敷き、その上にカーペットとか古くなったふとんなどを敷いて、その上にカーテンにするような布を敷くのが極一般的で、これでだいたい畳の上にいるのと同じくらいの柔らかさになります。

で、カンというのは下から火を焚いて温めるわけだから、その熱を遮断しないために、敷布団というのはほんとうに薄く、場合によっては敷かないのです。ばあちゃんが作っているのは、まさに敷布団で、それが、な、なんとっ!私のために縫ってくれていたのです!

何度も来た間に、端っこが余ったらちょうだいね、とは頼んでおきました。小さな座布団でも作れるくらいくれたらいい記念になるなぁと、期待してはいたのですが、まさかこんなにすばらしいプレゼントがもらえるなんて!

ばあちゃんには、今日、DVDに焼いて持ってゆきました。ばあちゃんチには機器はないけれど、娘さんのところにあるそうで、これもきっと喜んでもらえると思います。布は、敷くのはなんだかもったいないので、今は壁に飾ってあります。

ちなみに、上の写真のそれぞれの工程には、名称というか呼び方があるはずですが、私にはさっぱりわかりません。どなたかご存知でしたら教えてください。