がんばれナンマツ君!PART2

遥かとつ国より、ナンマツ君へのはげましのお言葉ありがとうございます。ナンマツ君はあれからも自らリハビリに励んでいるようで、毎日行く度に5mとか10m移動しているのです。しかも、少しでも風がよけられるところ、少しでも日当たりがいいところを目指して。彼がただに身の不運を嘆くことなく、けんめいに生きようとしている姿には、むしろ私の方が勇気づけられます。

そして今日4日は朝から風が強く、ことのほか寒い1日でした。ほんとうは暖かいものでも持っていってやりたいのですが、私も不自由な旅先の身です。夕方4時半頃、水と干しマントウ3つとソーセージを1本届けに行くと、ナンマツ君の姿が見当たりません。あれっ?どこに行ったんだろう?とキョロキョロしていると、ずいぶん遠くの方から「きゅーん、きゅーん!」と私を呼ぶ声がして、ナンマツ君の尻尾がピコピコ動いているのが見えました。え〜っ!そんなに遠くまでひとりで行ったの?という距離です。

ところで、ナンマツ君は「ワンワン!」と明確に吠えることはできません。それが昔からなのか、事故の後遺症なのかはわかりませんが、「きゅーんきゅーん」「くーんくーん」と、かすれた声で苦しそうに寂しそうに鳴くだけです。事故で声帯がやられたとも考えにくいので、昔からそうなのかもしれません。

ナンマツ君の新しい居場所は、これまでよりずっと広々とした平地で日当たりもよく、すぐ隣には天然ガスの掘削をしている会社の現場事務所があります。ここには若い人が常に何人か詰めているので、運が良ければ支援者に出会えるかもしれません。私も磧口にいつまでもいられるわけではないのです。あとはもう彼自身の生命力にまかせるしか道はありません。

ご飯を持っていくと、ナンマツ君は前足に力を込めて、ぐいぐいと私に近づいて来ました。これまでにない力強い動きです。自分はこの地でこうやって生きてゆくんだという固い決意すら感じさせられます。

マントウとソーセージをペロリと平らげた彼は、私が帰ろうと背を向けると、後ろから「きゅーん、きゅーん」と呼び止めました。また明日来るからね、と振り返ると、ナンマツ君の様子がちょっとヘンです。どうやら渾身の力をふり絞って、立ち上がろうとしているようです。

私はびっくりしてカメラを構えました。彼は毎日食べ物を届けてくれる私に、自分が立ち上がろうと頑張っている姿を見せたいんだと思ったからです。彼は2度3度と前足に力を集中したかのように見えました。彼はとても足が長く、身体の大きな犬なので、2本の前足だけで体重を支えあげるのは容易ではありません。しかしついに何度目かに;

ナンマツ君は立ったのです!

それはほんとうに一瞬のことでした。彼は崩れるように尻餅をついて、そのときにどこかまたギクッとやったのでしょうか、それからは立とうとはしませんでした。

21日に車にはねられて、生死の程もわからないほど衰弱していた彼は、ついにこんなところまで回復したのです。夜間は氷点下10℃という雪と氷のしじまの中で、野性の力を頼りに2週間。当地の冬はまだまだこれからが本番なので予断は許しませんが、それでももう少したてば自力でもっと暖かい場所へ、雪が降り積もらない安全な場所へ、食べ物が見つけられる場所へ、少しずつ移動することができるようになるでしょう。がんばれナンマツ君!冬来たりなば春遠からじ。

(12月4日)