ひとりヤオトン

瀋陽から戻ってしばらくは天気が悪かったのですが、1週間ほど前から晴天が続くようになりました。日中の陽射しがきついので気温もどんどん上がり、夜間も前より暖かくなりました。しばらく前は、日が暮れると外気温が10℃を割った日もあったのです。これを書いている現在午後8時、室温は18℃あります。

引越しの件ですが、けっきょくあの後に大夫がまたやって来て、越さないで欲しいというのです。つまり、私が同じ村の中で引越しをするとなると、当然「なぜだ?」ということになり、噂が広がって、今の大家さんの面子が潰れるというのです。しかし、部屋の中で飼わないで欲しいといったのは大家さんだし、私は氷点下の寒空になつめを外に出しておきたくありません。

実はもうひとつあって、なつめを外で寝かせると、夜中の遠吠えがうるさいのです。村中犬だらけで、しかも放し飼いで、なおかつ、地形的にここは湾のような形に開けた村なので、ウヮンウヮン“野生の呼び声”が響き渡ってかなりすさまじいものがあるのです。部屋の中に入れておけばまず吠えません。

それでけっきょく、今いるところを引き払うことは止めて、ふたつ部屋を借りることにしました。新しいところは、谷の低い位置にあるので、ネットの繋がりがますます悪く、もしかしたらほとんど繋がらないかもしれないのです。これまでのところは高い位置にあるので、環境的には村の中ではいい方です。なにしろふたつ借りても、家賃は1ヶ月1000円という、申し訳ないくらいの安さですから。ちなみに電気代というのも安くて、毎月大家さんの分も含めて200円くらいです。水は天水なのでもちろんタダだし、つまり住居光熱費というのは、ひと月1000円しないということです。(ただし、冬場は石炭代が高いので、現金収入の少ない農民たちにはこたえます。これについてはまたあらためて)

で、ここのところ毎日、荷物を少しづつ移動させているのですが、あらためて気づいたことがあります。今度のところは、谷に下がったところにあるのですが、まわりを見ると、家もボロいし、ひとりヤオトンが多いし、門もないところが多く、つまり“ビンボー”なのです。やっぱりお金持ちは高いところに住みたがるようです。というか、昔からずっとそこに住んでいたわけで、つまりこんな小さな村の中でも“階層”があるようなのです。

隣の孫改改ばあちゃんの家は、ひとりヤオトンですが、内部はもうかなり悲惨な状態で、ほとんどゴミの山の中で暮らしています。その隣も羊飼いのおじさんのひとりヤオトンで、ビンボーで結婚できなかった人だと思います。どの村に行っても必ず数人います。日本のように“結婚しない”人ではなく、できなかった人です。一般的には、老後は“乞食”になって、葬儀や婚礼のときに活躍します。共同体の中に彼らの存在はきちんと位置づけられているのです。

話が飛びましたが、さっそくそのおじさんと仲良くなりました。小ぶりの洗面器のようなどんぶりを持って私の前に現れたのです。おじさんはとうに私のことを知っていたようで、あとで遊びにおいでといわれて、さっそく出かけたのですが、なんだか羊の散歩に出かけたようでした。ちなみに、こちらでは、テーブルについて食事をするという習慣がなく、どんぶり抱えて、ウロウロしながら自由自在にご飯を食べるのです。

(10月17日)