賀家湾(ハージャーワン)

今日、磧口から賀家湾という村に引っ越してきました。1〜2ヶ月の予定です。実はなつめの件とは関係なく、引越すことは前から決まっていました。この村は以前1年くらい暮らした樊家山の隣村で、すでに知り合いも多いところです。

1ヶ月ほど前に「しばらくここに住みたいんだけど、どっか空いてる部屋ない?」と、村人がたむろしている古木の下に行って聞いてみると、なんだかよくわからないけれど、「○○のトコがいいんじゃないか」とかなんとかいっていて、「ああ、ちょうどその○○が来た」ので、「とにかく部屋見せてくれる?」と彼女について行きました。すると私の見知った羊飼いのおじさんの家だったので、「なんだぁここかぁ」と思って、おばさんが開けてくれた扉の中を覗いてみると、「えっ?これはっ!」。そこには白い紙製の御簾が下がり、前に簡素な祭壇があって、これは間違いなく、誰かが死んで、その遺体が安置してある部屋です。

すると息子がやって来て、「おやじが死んじゃったよ」というのです。「10日後に葬儀だから、それが終わったらこの部屋空くから使っていいよ」「なんで突然亡くなったの?まだ若かったのに」「胃が悪かったけど、医者に診せたときは手遅れだったんだ」「オレは葬儀が終わったらまた出稼ぎに行くから」。おそらく胃ガンだったのでしょう。この地で健康診断など夢のまた夢、夢‥‥。医者にもかからず亡くなる人も多いのです。

葬儀には私の撮った写真を使うというので、もっと大きく引き伸ばしてあげるというと、いいからいいからとすでに額縁に収まった写真を見せてくれましたが、そのあまりの小ささに、「あぁこの人たちは生まれたときからずーっとほんとうに無欲に生きてきたんだろうなぁ」という思いにつまされ、その場で私はこの部屋を借りることに決めました。

そして今日、家賃を払おうとすると、いらないというのです。どうせここは使わない部屋だから、住んでくれるだけでいい、といって譲らないのです。私は無理やり彼女のポケットにねじ込みましたが、(樊家山と同じ)1ヶ月30元、日本円にして500円に満たない金額です。

ところでなつめなんですが、散歩に連れて行った草地でイネ科の草をもぐもぐ食べていたのですが、どうやらそれに毒があったらしく、しゃっくりが止まらなくて、もう一時は全身が痙攣状態で死ぬんじゃないかと思いました。今はだいぶおさまって静かになりましたが、まだ断続的に続いています。それでもご飯は食べたので大丈夫と思いますが、まったく次から次へとお騒がせ犬です。

(5月10日)
写真:御簾の中に棺が安置されています。右下にあるのが麻の枯れ枝(油をとる麻)で、出棺のとき、これで棺の周りを飾ります。その上に少し写っているのが、カン(オンドル式ベッド)。洗面器の中は、弔問に来た人が、ひとりづつ机の上に置いてある紙を燃やした燃え殻。下の写真は、一昨年10月に撮影した賀ジン喜。