白じいちゃんが死んだ

磧口に戻った翌日、預けてあったなつめを受け取りに行くと、李三娥が「去年最後に取材した白宝有(バイ・バオヨウ)が死んだよ」というのです。白じいちゃんはすでにおととしの夏に取材をしているのですが、そのときはまだビデオがなかったので、去年の暮れに改めて取材したのです。いつもと変わりなく元気だったのですが、2月に凍結した道路で転んで寝ついてしまい、そのまま亡くなったそうです。

白じいちゃんはすぐ隣の西頭村の住人で、磧口の街中で石段の上にロープや雑貨などを広げて小商いをしているので、私が磧口にいる限りはしょっちゅう顔を合わせます。あまり言葉が通じないので簡単なあいさつをかわす程度ですが、私が特別に好きなじいちゃんのひとりです。というのも、彼から聞いた話は「日本人に命を救けられた」というもので、しかもちょっと胸にジンとくる内容もあって、彼の顔を見るとついつい「じいちゃん元気?」と声をかけたくなってしまうのです。

去年の秋に部屋をのぞいたときには、大きな棺おけが片隅にどんっ!と置いてあって、自分のために800元で用意した、これでもう安心だと笑っていたのですが、こんなに早く逝ってしまうなんて思ってもいませんでした。

取材の翌日に、私が一昨年杭州に行ったときに買った、西湖の蓮の粉、つまりレンコンで作った葛湯のようなものをあげたのですが、それを後ろ手に持って、トコトコ帰っていく姿を見たのが最後でした。ほとんど字の読めない彼のために「じいちゃん、湯をたくさん入れたらまずいからね、これくらいだよ」とくどくど教えたのですが、ちゃんと説明したとおりに作っただろうか?あんな“贅沢”なものはきっと食べたことがない人たちだけど、おいしいと感じてくれただろうか?

葬儀のときに使う写真をあげることになっていたけれど、その約束が果たせなかったのがとても残念です。

(5月7日)